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大征編29

 リョガンは四十過ぎ、背はあまり高くないが、がっしりとした体格の、歴戦の武人といった風貌の持ち主であった。


 外見だけではなく、兄の勇名を辱しめぬだけの才幹の持ち主であり、魔道兵器や竜騎士、戦船をアーシェアから借り受けて攻めるギガを、見事な守城指揮で寄せつけずにいる。


 攻めるギガ、守るリョガンの戦いぶりを眺め、


「ソナンには思ったより名将が多い」


 そうつぶやくアーシェアと、それにうなずくムーヴィルら、その表情に焦慮の色はない。


 ヨージョが堅城であるのは一目瞭然。一朝一夕で攻め落とせるような要害ではない。


 重要拠点たるヨージョは、堅固な城塞が築かれているだけではない。四万の兵と百隻以上の戦船を有している。


 ヨージョは力ずくで攻め落とせる城ではないが、守る兵と有する戦船を使えば、力攻めさえ許さぬことも可能であった。


 周辺の砦にいくらか兵を送れば、陸路から攻める場合、まずそれらを制圧せねば、ヨージョを直に攻撃するのも難しい。さらに戦船で大河の要所を押さえておけば、水路からも直に攻められるものではない。


 だが、そのヨージョ防衛におけるセオリー、それをリョガンは行わなかった。正確には、兄の急死による指揮権の引き継ぎに伴うゴタゴタのせいで行えなかったのだ。


 兄の急死による混乱につけ込まれる形で、アーク・ルーンに先手を取られたリョガンは、周辺の砦と大河の要所を攻め手に押さえられ、水陸両面からヨージョは直に攻められる状態に陥っている。


 もちろん、ヨージョは力攻めで落ちるような城塞ではない。それは守るリョガン、攻めるギガも承知している。だが、それを承知の上でギガが攻め、防ぐリョガンの心中には焦りの色が濃い。


 ヨージョ防衛において、陸路はともかく、水路を確保できないのは、正に死活問題。スースイでもそうだが、大河沿いの城は水路さえ確保していれば、外から兵糧を運び込める。逆に言えば、水路を奪われてしまうと、いずれ兵糧が底をついて、どの城も落ちるのだ。


 ヨージョの城内には百日分の兵糧がある。その兵糧が無くなる前に水陸どちらかでも良いから補給路を奪還しないと、ヨージョはいずれ陥落する。それがわかっているからギガは断続的な攻撃を加え、リョガンを守城指揮で手一杯とさせているのである。


 城壁を挟んで睨み合っているだけなら、リョガンも補給路の回復に兵や戦船を動かせるが、いつ城を攻められるかわからぬ状態では、それに備えねばならない。


 いずれ兵糧が底をつくのがわかっていながら、ギガの牽制によって、リョガンは現状打破を計りたくとも計れぬ状況にある。


 兵糧の備蓄がある内は、ヨージョは小揺るぎもしないだろう。しかし、兵糧の備蓄が乏しくなっていけば、守兵が動揺を始めるのは目に見えている。


 自力でヨージョを守り抜くことはできない。部下や兵の中にもそれがわかる者がいるが、上官としては彼らを動揺させるわけにはいかず、


「安心せよ。援軍が間もなく訪れる。貴官らはそれまで城を守ることのみに集中せよ」


 別段、リョガンは苦し紛れに虚言を口にしているわけではない。


 すでにリョガンはヨージョの現状を書状にしたため、ソナンの首都リンカンに救援を求める急使を送っている。


 そして、ソナンの首脳部もヨージョが失陥すればどれだけマズイかわからぬほど、愚かではなかった。


 リョガンよりの急報を受け、十万もの兵を整え、リンカンより西へと進発している。


 宰相ジド率いる十万の兵が。




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