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大征編28

「ヨージョを攻め落とす、いえ、ソナンを征服するのは容易いことにございます」


 スースイ守将ギガは割り切りの良い男らしく、降伏してアーシェアに頭を垂れた後、さっそく祖国を滅ぼすための献策を進言してきた。


 あまりの変わり身にアーシェアたち第十三軍団の主だった者らは怪しんだが、その疑惑はギガの献策を聞く内に薄らいでいく。


 兵糧が欠乏し、援軍の当てのない状態で籠城するには不可能。その当たり前のことを何日もの葛藤の末に受け入れたギガは、兵や民の助命を条件に降伏を申し出て、その条件をアーシェアが受諾されると、スースイの城門は開かれた。


 降伏したギガの身の処し方は三つ。自ら命を絶つか隠棲でもすれば、ソナンの臣として汚名を被ることはなかっただろう。


 しかし、ギガはまだ四十代半ば、また世を捨てるには気にはなれず、何よりも栄光への未練もある。


 敗れたりとはいえスースイの守将の才幹をアーシェアは高く評価しており、アーク・ルーンの部将として招く旨を伝えると、ギガは第三の道、アーク・ルーンの臣として再出発する道を選ぶ。


 かつては苦悩や葛藤はあっただろうが、新参のギガはアーク・ルーンの部将としての地位を確かにするには、手柄を立てるより他にない。


 ギガはまず知己に降伏を促す書状を送った。これに幾人かが応じ、いくつかの城が戦わずに城門を開いて、アーク・ルーンの支配下に入った。


 スースイの城兵に加え、これら降伏した城兵をギガはまとめ、アーク・ルーン軍の先陣を引き受け、自らの忠誠を示す。


 アーシェアとしては、ソナン兵同士で争い、自軍の損耗が避けられるというのは、ありがたい話だ。ギガもそれがわかっているから、率先して矢面に立とうとしているのだろう。


 無論、ギガが同胞同士で血を流すように仕向け、アーク・ルーンにとってありがたい状況を整えようとしているのは、見返りを求めてのことだ。アーシェアもそれを承知しているので、有能な新たな味方の勤労意欲を削がぬよう、対価を惜しむつもりはない。


 言うまでもなく、ギガを厚遇すればするほど、ギガの勧めに応じて降伏したソナンの諸将も、ギガに続かんと奮起するであろう。特にソナンの制度は、文官を優遇する一方、冷遇されてきた武官たち、ギガらは祖国に潜在的な不満を抱いている。


 アーク・ルーンは実力主義であり、実力次第で亡国の者であっても高い地位につける。アーク・ルーンの軍部にはアーク・ルーン出身の将軍、ロストゥル、メガラガ、インブリス、シャムシール侯爵夫人と幾人かいるのに、軍のトップにあるのは亡国の身であるメドリオーだ。第十三軍団に限っても、副官であるフレオール以外、主だった者の中にアーク・ルーン出身の者はいない。


 実力に比して冷遇されてきたという思いを抱いてきたギガたちからすれば、望むところと言うべき制度であり、彼らは着々とヨージョを攻める準備を整えている。


 それに対して、ヨージョを守るリョグスは何の手も打たずにいるが、それは仕方ないだろう。


 第十三軍団がスースイに攻め寄せた頃からリョグスは体調を崩してしまい、それがスースイが陥落する前後から急速に悪化していき、つい先日、息を引き取ってしまったのだ。


 リョグスには息子が何人かいるが、まだ若く父親の任務と軍勢を引き継ぐには、まだまだ経験が足りない。幸い、リョグスにはリョガンという弟がおり、兄に劣らぬ将才の持ち主ゆえ、リョグスの死に多少の混乱が見られたが、リョガンはヨージョの守りを引き継ぐことはできた。


 ただ、その多少の混乱をおさめる間に、第十三軍団はギガのまとめた旧ソナン兵を先頭に攻め寄せ、水陸両面からヨージョの包囲を完成させてしまったが。



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