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大征編18

 ジキンの北には連城、または連結城と呼ばれる、長大な防壁が築かれている。


 北の遊牧民を防ぐために多くの城を築いたが、遊牧民は城を無視して南下するため、それらをつないで長大な防壁としたのだ。


 この連城はジキンが築いたものではなく、この地に古来から築かれている。そもそもジキンの祖は連城の北に住んでおり、かつてはこの連城に阻まれる側であった。


 ただ、それゆえに連城がいかに厄介かを理解している。連城を越える苦労と、これを突破するのに民族が文化的に発展して、攻城兵器を作れ、使えねばならないことも理解している。たしかに、攻城兵器を持たぬ遊牧民には越えられぬ代物であろう。


 遊牧民らを従え、ジキンに攻め込んだ、魔法帝国アーク・ルーンの第五軍団の軍団長スラックスと副官のシダンスも、この連城をいきなり攻めるのは避け、ジキンの軍を連城の北に引っ張り出すように画策した。


 ジキン軍を連城の北に引っ張り出すのは、さして難しいことではない。元々は連城の北にいたジキンだ。そのジキンの故地に進軍すると、ジキンは二十万の大軍を連城の北に繰り出し、アーク・ルーン軍の行軍を阻まんとした。


 かくして、三万の遊牧民の戦士を先陣とするアーク・ルーン軍十万とジキン軍二十万は、北の荒野で対峙するとすぐに真っ向から激突した。


 多数の弩を構えて待ち受けるジキン軍に対して、スラックスは魔道戦艦と魔砲塔の砲撃をジキン軍の一部に集中させ、そうして崩した部分に遊牧民の戦士らを、砲撃と矢の雨で援護しながら突撃させた。


「本当に、かつては天下無双の軍であったのでしょうかな」


 シダンスが小首を傾げるほど、天下無双のジキン軍は脆く、弱い。


 遊牧民の戦士の突入を許すと、そこからほぼ一方的に斬り立てられ、馬蹄で蹴散らされていき、あっさりと崩れ出した。


 ジキン軍のあまりに不甲斐ない戦いぶりと、荒涼とした周りの景色を見渡したスラックスは、


「この地に暮らしていれば、天下無双の強き軍であったのだろうな」


 北の地を行軍すれば、そこがいかに環境の厳しい土地かがよくわかる。


 その過酷な環境で暮らし、生き抜くにはそれだけの強さを必要とするのだろう。否、弱きが生きていける環境ではなく、自然と強き者だけが残ったと思われる。


 その地で生きる遊牧民の強さは、今、ジキン軍を圧倒していた。


 ジキンも連城の北で暮らしていた時代は、天下無双と称えられるほど精強であったのだろう。だが、その強さで豊かな土地を奪うと、安楽な環境の中で弱体化していき、強兵の面影などなくなってしまったのだ。


「全軍突撃!」


 三万の遊牧民を相手しているだけでジキン軍は押され気味なのだ。そこにスラックスの号令一下、十万のアーク・ルーン兵の攻勢を受けると、ジキン軍は完全に突き崩され、全面敗走するまでさしたる時を必要としなかった。


「一兵も逃すなっ! 殺し尽くせ!」


 深い恨みを抱く遊牧民の戦士らは、逃げるジキン兵を執拗に追い回す。


 スラックスも敵を敢えて見逃すようなマネはせず、追撃の手をゆるめなかったが、さすがに深追いは避けた。


 ジキン軍二十万をことごとく殺し尽くすとはいかなかったが、遊牧民の執拗な追撃もあり、少なくとも六万人のジキン兵が荒野で屍を晒した。


 それは六万の屍から身ぐるみをはがせるということであり、勝者の権利としてジキン軍の武器や防具、遺棄物資を手に入れた遊牧民の戦士らの目には、強い憎しみに加えて、強い打算の色も加わった。




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