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大征編14

「殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!」


 船上に立てる病状ではないヅガートは、甲板に置く簡易ベッドの上で身を起こした状態で、ザゴンが歓喜するような指示を連呼していた。


 病魔に蝕まれようと、ヅガートの用兵の冴えにかげりが生じないのは、七竜連合との第二次連合軍との決戦で証明されている。


 今回も七つの島国が手を結んだ連合軍を相手に大勝利をおさめていた。


 そして、今回も懲りもせずに性病を患ったヅガートは、前回と同様、敗者に対してムスコがジンジンするという理由で、過酷な処置を兵に命じていた。


 敗走した連合軍が一万近い死者を出して、マリンブルーの海を赤く染めたのは、戦場のことゆえに仕方ないだろう。が、戦船がヅガートの策略で航行不能となったがゆえ、降伏した二万の敵兵の手足を斬り落とし、船上から海に突き落とす行為には、アーク・ルーン兵らも鼻白まずえない。


 この後、上陸して病身にありながら指揮を採ったヅガートは、降伏勧告を拒んで王城に立てこもり、徹底抗戦の構えを見せた国に対して、籠城側の水源を押さえて水を絶ち、全員が渇きに苦しんで死ぬよう仕向けた。


 懲りもせずに同じ轍を踏んだ今のヅガートは、酒も飲めねばバクチに行けず、何より女を抱けないので、虐殺の十や二十もしなければやってられないのであるが、当然、これは大いにマズイ。


 ヅガートの最大の欠点は、実戦指揮官としては優れているが、将軍としての感覚に欠けている点であろう。


 戦えば勝つ。単純な実戦指揮の能力はメドリオー以上かも知れない。だが、戦うに際して、勝てばいい、儲ければいい、としか考えず、戦った後、勝った後のまるで考えていないのは、明らかに将軍としての資質を欠くものだ。


 戦って勝てねば話にならないが、その勝ち方に気をつけるのも将軍の役割なのだ。征服後の統治を見据えた戦い方、勝ち方をすべき立場なのに、ヅガートはその辺りの自覚がまったくない。


 実際にヅガートの連戦連勝によって、アーク・ルーン帝国は南東方面の新領土における統治を頭を痛めることになるのだが、そうならないようにたしなめるべきザゴンは、副官としての役割を十全に果たさなかった。


 ヅガートの織り成す虐殺の数々が面白いザゴンは、それに便乗して自らの嗜虐趣味を満たしていたのは否定できない。例えば、親子で従軍していた敵兵を捕虜にすると、助命の条件に息子に父親の手足を斬り落とさせ、海に突き落とさせるということもしている。


 ただ、ザゴンいわく、


「ヘタに制約を課せば、ヅガート閣下の持ち味を殺すことになりましょう。何しろ、我が軍は三万、しかも一万は体調を崩した兵なのだ。しかも、友軍はまだ充分に回復していない。この情勢でやり過ぎな面があろうと、勝利による示威は必要なもの。綺麗事よりも勝利を第一とするのは間違ってはおらぬはず」


 結局、この弁明が通り、ヅガートの振る舞いは戦場における応分の処置として不問に付された。


 逆に言えば、その弁明が通ることを確信していたザゴンは、ヅガートの虐殺を止めるどころか、あおりさえしていたのだが。


 ともあれ、魔法帝国アーク・ルーンの南東方面軍の作戦行動は一応、勝利と成功で終わった。


 ザゴンの心が踊る光景の数々を以て。




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