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大征編8

 タイトガ王国の要衝たるフントバ城、タントバ城を抜いたアーク・ルーン軍は、さすがに時期が時期であるので、それ以上は兵を進めるのをひかえた。


 無論、敵地にカーショルの師団のみを置くのは論外。第五、第十三軍団はタイトガ王国の国境線を越えることはなかったが、リムディーヌの第十二軍団は東進し、タントバ城以西の掌握に取りかかった。


 山々が連なるタイトガの地に三十万の兵を一度に投入できるものではない。だから、山岳戦に長けた第十二軍団のみを東進させたのだ。


 もっとも、厳密には第十二軍団のみだけではなく、第十三軍団の一部もタイトガの地で活動している。


 言うまでもなく、タイトガの地で活動している第十三軍団の一部は、フレオールが指揮する三十四騎の竜騎士である。竜騎士らはマヴァルの地と同様、タントバ城以東のタイトガ貴族の館を襲い、私掠行為に奔走している。


 竜騎士らの私掠行為に為す術がないだけではなく、タントバ城を攻略されて喉元に匕首を突きつけられたも同然のタイトガ王国だが、このような情勢下で呆れたことに王位を巡って有力貴族らが争い、内紛・内乱状態にあった。


 タイトガ貴族の中にはアーク・ルーン軍に密使を送り、


「兵を貸してくれたら、貴国に領土の一部を譲ろう」


 寝ぼけた交渉を持ちかける者さえいる始末だ。


「タイトガの最期の王が決まろうと決まるまいと、その過程で深く傷つくことになるでしょう。我々は春を待ち、疲弊したタイトガ王国を一突きすればいいのです」


 現状からすれば、リムディーヌが明言するとおりにタイトガ王国の幕は閉じるだろう。


 もはや、タイトガ王国の命運は決しており、滅亡を避ける手立てはない。後はその日が来るまで、タイトガ王国の弱体化に努めるだけだ。


 だが、勝敗の決まったも同然の情勢であるにも関わらず、フレオールの一時帰還を、アーシェアはすんなりと許可しなかった。


 フレオールが指揮を採らずとも、竜騎士らに勝手に暴れ回させるだけで充分であるのは明白。シィルエールの出産という私的事情を知るアーシェアが、フレオールと我が子の対面を拒むのは、何かあったからに相違ない。


 それを隠し、先延ばしにしていたアーシェアだが、


「一生、隠しおおせることでもありますまい」


 ムーヴィルに諭され、ナターシャに指揮を委譲し、ミリアーナやフォーリスを伴い、フレオールが前線を離れることを許可された。


 そして、人払いした天幕でアーシェアと対面したフレオールは、


「……シィルエールは無事に男子を出産したそうだ」


 他者を遠ざけた上、歯切れ悪く告げられたのでは、我が子の誕生、せっかくの吉報も素直に喜べるものではない。


 実際、吉報に喜ぶ色を見せないフレオールに、無言で如何なる凶報かを問われたアーシェアは、観念したかのように嘆息し、


「……落ち着いて、聞いてもらいたい。無事に子は産まれはしたのだが……シィルエールは死んだ」



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