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大征編4

「……キサマら三騎で何とか食い止めろ! 我らもすぐに追いつくゆえ、それまで足止めせよ!」


 タントバ城に集結した六万の指揮を採る将軍ナッペリは、二メートルを越す巨漢で、十四の初陣より三十数年の軍歴を誇る歴戦の武人であった。


 その巨体に見合う剛勇の持ち主というだけではなく、積み重ねた経験に加え、知恵も回るナッペリだが、さすがにその場ではそれ以上の対策が打てなかった。


 兵の報告を受け、三十四騎の竜騎士の接近を知ったナッペリは、タントバ城の守りを固め、迎撃態勢を整えた。


 しかし、準備万端で迎え撃たんとするタイトガ兵とタントバ城の上空を竜騎士らは通過すると、ナッペリはすぐに追撃に移ろうとしたが、騎馬隊であろうと空を行く竜騎士に追いつけるものではない。


 ゆえに、ナッペリは亡命してきたガーランドら竜騎士に、竜騎士の足止めを命じた。竜騎士で竜騎士を止め、その間に追いつくという算段を、ガーランドは否定した。


「たった三騎では足止めなどできるものではない」


 相手は三十四騎を数えるのだ。たった三騎で立ちふさがって何とかなるものではない。最低限、十騎は必要である。


 だが、竜騎士に追いつけるのは竜騎士だけであり、ナッペリにはそれ以上の対応が思い浮かばず、追撃せよ、無理とガーランドらと押し問答している内に、タントバ城の前にカーショル率いる五千のアーク・ルーン兵が姿を現す。


 たった五千ではどう攻めようと、落ちるタントバ城ではない。しかし、アーク・ルーン軍はまだ二十九万五千おり、目の前の五千は先手にすぎず、後方には大軍がひかえているかも知れない。


 もはや追撃うんぬんという展開ではなく、ナッペリはガーランドらに偵察を命じ、


「後方にアーク・ルーン兵の姿はなし」


 その報告を受けると、しばし考え込んだ後、ナッペリは東側ではなく西側の門を開けさせた。


 たった五千のアーク・ルーン軍に、ナッペリはタントバ城に最低限の守備兵のみを残し、ほぼ全戦力を叩きつけた。その意図は明白で、一挙に目の前の一個師団を撃破、壊滅せんと考えて指示であった。


 五千対六万弱。いかにアーク・ルーン軍が精強であろうとも、これだけ数の差があれば、敗北、いや、大敗は必至と思ったのはナッペリだけではない。攻める側は皆、自らの勝利を確信し、アーク・ルーン軍に殺到し、身動きが取れなくなった。


 タントバ城が難攻不落なのは、城砦そのものが堅固な造りな以上に、その周辺地形が大軍を展開し難い点もある。そこに大軍を投入したタイトガ軍は、たちまちタントバ城に通じる狭い山道にひしめき合い、味方が邪魔で進むも退くもままならなくなる。


 過密なまでの密集隊形を余儀なくされたタイトガ軍でアーク・ルーン軍と直に戦えるのは先頭の二、三千のみ。カーショルの指揮の元、アーク・ルーン兵らは約十二倍に及ぶタイトガ軍を完全に押さえ込むと、即座に次の一手を打った。


 この展開を想定していたカーショルの師団は、陣中に大型投石機を二十と用意してある。そして、長い飛距離を誇るそれから打ち出されるのは、毒粉の塊。


 毒粉の塊はアーク・ルーン兵とタイトガ軍の先頭集団を飛び越え、密集しているタイトガ兵らの頭上に落ち、砕けて毒の粉を撒き散らす。


 毒の粉を吸い込んだタイトガ兵は次々と倒れていくが、麻痺性の毒ゆえに倒れたタイトガ兵は死んでいないが、それゆえに厄介という側面もある。


 何しろ、毒の粉を吸っていないタイトガ兵は足元で呻く味方を踏むわけにもいかず、さらに身動きが取れなくなったのだから。


 さらにこの混乱と被害は、アーク・ルーン兵と直に戦うタイトガ兵を動揺させ、アーク・ルーン軍に突き崩され始める。


「ガーランドらに、あの投石機を破壊させよ!」


 ナッペリの命令を伝令兵が苦労して伝えると、三騎の竜騎士が飛び立つ。


 上空から迫る竜騎士に対して、カーショルは弓兵らに迎撃を命じるが、


「ガアアアッ!!!」


 正面から放たれる矢など、いくら多くとも竜騎士らにあっさりと防がれてしまう。


 ドラゴン殺しの毒を塗った矢とて、当たらなければ意味はない。


 だが、カーショルは続いて、前進させた魔道戦艦に砲撃を命じるが、


「ガアアアッ!!!」


 これも防がれてしまうも、直後に乗竜に精神防御を命じたのは、元ゼラントの竜騎士らのみ。


 七竜連合にとって悪夢の始まりであるマジカル・ウィルス『ドラゴン・スレイヤー』への対処が遅れたガーランドの乗竜は、狂い、暴れ出す。


 そこにカーショルは用意していた毒の矢を初めて射たせた。


 ガーランドの乗竜が暴れ出したことに、二騎の竜騎士も今度の矢の雨は全て防ぐことはできず、ついに射ち落とされる。


 ガーランドの乗竜には命中しなかったが、正気を失ったダーク・ドラゴンは背中にしがみつく元主を乗せたまま、いずこかに飛び去って行く。


「ええい、役立たずどもが」


 その光景を遠望していたナッペリはひとしきり罵った後、全軍に退却を命じた。


 無論、タイトガ軍の密集隊形を思えば、退却命令は至難そのもの。味方同士が押し合う大混乱が生じ、その中で毒の粉を吸って動けぬタイトガ兵は味方に踏まれて死に、またアーク・ルーン兵の激しい追撃を受け、タイトガ軍の先頭集団はほぼ壊滅した。


 五千対六万。その大差はくつがえり、大敗したタイトガ軍は一万近い戦死者を出し、タントバ城に撤収した。



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