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大征編3

 当たり前ながらタイトガ王国はフレオールに嫌がらせをするために、この季節に戦を仕掛けたわけではない。


 険しい地形も厳しい気候も、タイトガの者ならば当たり前のものだが、侵略者にとってはそうではない。いかに大軍でも険しい地形がそれを阻み、厳しい気候が痛めつけてくれる。


 精強なアーク・ルーン軍であろうと、冬の山中に引きずり込まれれば、険しい地形に身動きができず、厳しい気候に弱っていき、疲弊したところを山岳戦を得意とするタイトガ軍に打ち破られただろう。


 しかし、スラックスもリムディーヌもアーシェアも自然に勝てぬことを理解しており、タイトガの術策を逆用できる才覚の持ち主だった。


 今や前線に分散して配置した一万がほぼ全滅したタイトガは、アーク・ルーン軍のこれ以上の侵攻を防ぐべく、慌てて兵を動かした。


 タントバ城はタイトガの西部と中央の境にある要衝であり、山道を塞ぐように設けられた、難攻不落の要塞だ。


 タイトガはここに六万の兵を集結させただけではない。亡命してきた三騎の竜騎士も派遣し、さらにドラゴンの硬い鱗を貫く弩や大型武器も多数、用意した。


 フレオールらも各所に潜伏しているタイトガ兵らを無力化するのに時を必要とし、タントバ城はその間に防備を固めるのに成功もしている。


「三十万だろうが、五十万だろうが、タントバ城を抜けるものではないわ」


 タイトガの首脳部が前線からの報告に安心し、安眠できたのはそう長い間ではなかった。


「アーク・ルーン軍、来襲!」


 難攻不落のタントバ城を軽々と飛び越え、三十四騎の竜騎士がタイトガの王都、グングガナに殺到したからである。


 前線に兵力を差し向ければ、その分、グングガナの守りが薄くなる。マヴァル帝国でも実践した戦法だというのに、何の対策も取っていなかったタイトガは、あっさりと王都の城壁を飛び越えられ、竜騎士らは王宮の上空に到達した。


「周りの屋敷を焼き払え」


 指揮を採るフレオールは、王宮の周辺を焼き打ちするように命じた。


 王宮の周囲に建ち並ぶのは貴族の邸宅だが、それが民家であっても同じ命令が下されていただろう。


 王宮の周囲で火災が生じれば、王都の各所にいる兵は火に阻まれ、王宮に行けなくなる。フレイム・ドラゴンを駆る竜騎士が火を放ち、エア・ドラゴンを駆る竜騎士が風を起こして火の勢いを強める。


 もちろん、王宮には常時、充分な数の守備兵が配置されている。しかし、一騎当千の竜騎士らを相手取るには不足しており、王宮を守るタイトガ兵は、竜騎士に次々と討たれていった。


 祖国を滅ぼしたアーク・ルーンに従う竜騎士らだが、その士気は高い。アーク・ルーンから略奪品の半分を懐に入れても良い権利を与えられている彼らにとって、一国の王宮は正に宝の山だった。


 王侯貴族の生まれである竜騎士らは、贅沢に慣れている。しかし、祖国が滅んで王侯貴族でなくなった直後、彼らは貧苦に喘ぐことになり、その辛さを味わっている。


 だが、その貧困生活も略奪によって解消していた。真っ先に敵兵を打ち払い、平然と女子供も殺してその装飾品を奪えるようになったナターシャは、家族のために御殿を建てて豊かな生活を送らしている。


 自分と家族がかつての虚飾に満ちた生活の一部でも再現するため、竜騎士らは目の色を変えて殺し、奪った。


 そして、竜騎士が奪うのは物だけではなく、人、見目の良い娘を捕らえて縛り、乗竜の背にのせて連れ去りもしている。


 捕らえられた若い娘の運命など言うまでもない。彼女らはさんざん犯された後、売り払われる。中には売り物にならなくなるほど、いたぶる者もいるが。


 そうした行為をアーク・ルーンもフレオールも黙認している。


 略奪品の対象は人も含まれ、その半額分の戦利品をアーク・ルーンに納めれば、所有権はその竜騎士のものとなり、どう扱おうがその竜騎士の自由となる。


 もちろん、憂さ晴らしに女を犯し、いたぶる竜騎士の振る舞いには、フレオールを初め多くの者が内心で嫌悪し、軽蔑しているが、竜騎士がこうして役に立っている以上、黙認してその働きに水を差さないようにしているにすぎない。


 それは竜騎士が、航空戦力が不要となった時、竜騎士が行状と贅沢な暮らしを改めなければ、容赦なく処断されるということでもある。


「さて、カーショル殿の方はうまくいっているといいが」


 自分の側にいるミリアーナとフォーリス以外の竜騎士の醜行から目をそらしつつ、フレオールはつぶやくとおり、アーク・ルーンの作戦は王宮を襲撃して、終わるようなぬるいものではない。


 いずれ邪魔になるタントバ城と六万のタイトガ兵の命運を、その作戦計画からもらすようなことはないのだから。


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