プロローグ12
彼女の傍らで小さな寝息を立てるのは、生まれたばかりの命。
自らが初めて産んだ命。
ブリガンディ男爵邸。その一室にその母子、元フリカ王国の王女シィルエールは、まだ生まれたばかりで名前のない我が子と共にいた。
「……フレオール……」
髪をほどき、ベッドの上で身を起こしている、出産直後なこともあり、いつも以上にやつれている様子のシィルエールは、呆けたように我が子を見下ろしながら、その名をつぶやく。
ライディアン竜騎士学園で出会った時、このようなことになるとは想像もしていなかった。それから側に、特に祖国が滅んでからはずっと自分を労ってくれたその名をつぶやくと、シィルエールは自然と胸が熱くなり、たまらなく苦しくなった。
フレオールを愛している。その想いがなくば生きていけないほど大きな存在になっている。そうして育まれた想いが、脆弱な自分を支えてくれていた。
あの日までは。
その想いをは今も変わらない。だが、フレオールの存在が大きいからこそ、脆弱な自分を押し潰されかねない一日を、今日まで何とか乗り越えてきた。
「……フレオール……」
もし、この子が愛する男の子供と確信できたなら、弱い自分も母親として生きていけただろうか。
そんな疑問も、愛するがゆえに苦しむ日も、
「……ハアアアッ……」
彼女は終わりとすることにした。
ドラゴニック・オーラを込めた手刀で。
「……ごめんね……」
母親になることも生きていくことも諦めた元フリカの王女は、最期にそうつぶやいた。




