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東征編37

 ドラゴニック・オーラを発現させ、戦闘準備を終えた瞬間、二人の元王女はほぼ同時に獲物を振るい、大剣と刀が激突する。


 繰り返しになるが、今のクラウディアは以前の、人であった頃とは違う。


 竜騎士であった頃なら、このような真っ向からのぶつかり合いを行えば、クラウディアの方が押し負けていただろう。


 だが、人であった頃を上回るドラゴニック・オーラを発現させられるようになった今、かつてと違ってウィルトニアの方が力負けしてしまい、ややバランスを崩す。


 踏ん張って姿勢を立て直そうとするウィルトニアに、クラウディアは踏み込んで刀による連撃を繰り出す。


 ウィルトニアは苦しい姿勢ながら大剣で連撃を防ぐが、クラウディアの一撃一撃は以前より重いというより、込められたドラゴニック・オーラの量が大きく異なる。


 一撃を受ける度に苦しい姿勢がより苦しくなっていき、ついに片膝が地面に突くや、ウィルトニアは大剣から手を離し、その右手がクラウディアの左足へと伸びる。


 ウィルトニアの右手はクラウディアが羽ばたいたがゆえ、虚しく空をつかんだが、


「……ぐっ」


 左手でつかんだ石ころを投じ、クラウディアの腹部に命中させる。


 息が詰まり、宙空で止まったクラウディアの左足首は今度こそウィルトニアの右手につかまれ、即座に地面に叩きつけられる。


「ぐあっ」


 地面に叩きつけたクラウディアに対して、ウィルトニアはそのまま得意とする間接技に移行することな

く、


「……ハアアアッ!」


 右手を離して跳び退いたウィルトニアは、クラウディアの放ったドラゴニック・オーラをかわす。


 とっさに放ったドラゴニック・オーラはかわされはしたが、その間に立ち上がって姿勢を立て直したクラウディアは、


「ハアアアッ!」


 ドラゴニック・オーラを間断なく放つが、それもウィルトニアに当たることはなかった。


 距離を取っているのもあるが、元々、クラウディアの戦い方は接近戦をメインとしたもの。イリアッシュやシィルエールのような中・遠距離戦の経験があるわけではない元竜騎士の攻撃は、ウィルトニアに通じるものではなかった。


 そして、この攻防に先に焦れたのは、


「ハアアアッ!」


 ドラゴニック・オーラの放出を止め、右手を地面に突くクラウディアだった。


 直後、ウィルトニアのいる一帯に数十本の土槍が突き出るが、その身が土槍に貫かれることはなかった。


 ドラゴニック・オーラの放出が止まった時点で次の一手を読み、靴底をドラゴニック・オーラで強化し、器用にも土槍の先端に立っているだけではない。


 何と、そのまま土槍の先端を足場に駆け、クラウディアへの接近を計るが、


「ハアアアッ!」


 今度は魔戦姫三号体の能力と意思に応じて、土槍が、ウィルトニアの足場が一斉に崩れ出したので、少し離れて観戦していたフレオールが慌てて駆け出す。


 足場を崩されたウィルトニアは、しかしバランスを崩すことなく、落下しながら右足を振るい、


「……ぐがっ」


 崩れる足場、土槍の一部を蹴り飛ばし、それをクラウディアの顎に命中させる。


 顎を蹴り出された土塊に打たれ、クラウディアがのけ反っている間に、着地したウィルトニアはさらに駆け、助走をつけて跳躍する。


「ハアアアッ!」


 跳び上がったウィルトニアに対して、クラウディアはドラゴニック・オーラを放つが、それらはドラゴニック・オーラで強化した靴底、ウィルトニアの跳び蹴りに蹴散らされてしまう。


 今のクラウディアはたしかに膨大なドラゴニック・オーラを操れるが、今、ウィルトニアに放ったドラゴニック・オーラはとっさに放った一撃でしかない。


 何より、やはり中・遠距離戦に不慣れなクラウディアの放つドラゴニック・オーラは集約が甘く、勝負所をわきまえて靴底に全てのドラゴニック・オーラを集約したウィルトニアの跳び蹴りの前に力負けしてしまったのだ。


 放ったドラゴニック・オーラを蹴散らされ、ウィルトニアの靴底を顔面で受けたクラウディアは、地面に無様に倒れ込む。


 仰向けに倒れ込んだクラウディアにウィルトニアは馬乗りになり、両足で胴体を押さえて動きを封じつつ、右手を伸ばしてその細い首をつかんで締める。


 喉笛をつかみ潰さんばかりのウィルトニアの攻めは、しかしクラウディアにとってはピンチではない。


 この密着状態でドラゴニック・オーラを放てば、ウィルトニアにかわしようはなく、クラウディアの逆転が成るはずであった。


「……ぎゃ、はっ……」


 ウィルトニアの左手の人差し指がクラウディアの右目を突き潰されねば。


 もちろん、今のクラウディアは魔戦姫である。潰れた右目は即座に修復を始めるが、これこそがウィルトニアの狙い。


 リナルティエ、先に戦った魔戦姫との経験から、傷を与えてもすぐに自動修復することは知っている。だが、一方で負傷した魔戦姫は亜空間にあるエネルギーが自動修復に優先され、自動修復が終わるまで戦闘用エネルギーへの供給が滞るようになる。


 魔戦姫は亜空間からのエネルギー供給がある限り、首をへし折っても死なないし、窒息死することもない。だが、このまま首を締め上げていれば気絶する。


 クラウディアが気を失うまで攻撃、亜空間にあるエネルギーを戦闘に用いることができぬよう、目玉なりを潰し続ければ良く、ウィルトニアの勝利は確定したがゆえ、彼女は右手を放して魔戦姫三号体の上から転がるように離れる。


 突き出された真紅の魔槍をかわすために。


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