東征編36
一体で四百名以上の兵を一方的に討ち取ったクラウディアだが、この結末は驚嘆に値しない。
竜騎士は一騎当千の存在。乗竜のいないクラウディアだが、ベダイルは彼女を竜騎士以上の存在となるように手を加えている。
主たるベダイルに作り直された自らの身を思えば、四百程度では満足がいくまで戦えたと言い難い。
残る二千三百弱のコノート兵も、ベダイルに与えられた能力ならば、単身、薙ぎ払えると思わなくはないクラウディアだが、武器も戦意もない兵士と戦っても意味はない。
それにクラウディアにとって、実験の本番はこれからなのだ。辺りに転がる四百以上の骸は、実戦における自己の能力確認という意味合いが強い。
魔道戦艦や魔甲獣を開発したベダイルだが、魔戦姫のコンセプトは根本的に違う。前者はネドイルの意向と野心を汲み、量産性や汎用性を重視し、兵器としての有用性を優先した。
対して、魔戦姫はベダイルの目指すところ、個の強さを追求した作品だ。魔戦姫が多数の兵を倒したとしても、本来のコンセプト、求める強さではない。
当然、クラウディアにもベダイルは自分の胸の内と熱い想いを語っている。ゆえに、主の目指すところと想いを知る魔戦姫三号体の実験、その本番はこれからであると言える。
そして、その本番の相手を勤めるのが、ウィルトニアであるのも言うまでもなく、ドッヘルらが全員、討ち死にすると、次に元バディンの第一王女の前に進み出のは、武装を整えた元ワイズの第二王女であった。
ちなみに、個の強さを試す相手に双剣の魔竜レイドを選ばなかったのは、魔戦姫三号体どころか、三体がかりでも勝てないのが明白だからだ。
七竜姫の中でウィルトニアはクラウディアより実力で上回っていたが、その差は大きなものではない。無論、今のクラウディアはかつてと違い、竜騎士でなくなっているが、魔戦姫として生まれ変わっている。
魔戦姫となった自分の実力がどの程度のものであり、かつての自分よりもどれだけ強くなったかを確かめるのに、ウィルトニアはある意味で打ってつけの相手と言える。
そして、ある意味でシィルエールやフォーリスより壊れている今のクラウディアは、ベダイルの役に立つならばウィルトニアとためらうことなく戦うだろう。
もっとも、相手が誰であろうと戦うに際して手を抜くウィルトニアではないが、さすがにクラウディアの前に立つ姿は辟易としているが。
だが、その心中がどうであろうと、対峙した二人の元王女は、
「ハアアアッ!」
ドラゴニック・オーラを自らの身と武装に満たした。




