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東征編35

 ドッヘルの募った玉砕に応じたコノート兵は四百三十二名。約一割五分強といった数であり、二千三百近いコノート兵が無意味な戦いに身を投じるのを拒み、またはためらった。


 祖国コノートを滅ぼしたアーク・ルーンに対し、一矢を報いたいと思うコノート兵は少なくはない。そのための斬り死に敢行するというのであれば、四百の二倍三倍の兵が応じたかも知れない。


 だが、ドッヘルが募ったのはアーク・ルーンに一矢を報いることを許されぬ玉砕だ。犬死にどころか、アーク・ルーンのくだらぬ実験のために死のうと言われたところで、応じられるものではない。


 それでも応じた四百三十二名の内、約半数は先の戦いで死に遅れた者らだ。彼らの中には立つのがやっとという重傷な者もいるが、それでも亡き戦友らに一刻も早く続かんと、無意味な戦いの場に立っている。


 もう半数強は無駄死にを選んだドッヘルに殉じることを選んだ面々だ。ドッヘルと共に死ぬために、彼らは無意味な戦いの場に立っている。


 そのドッヘルを率いる四百三十二名を迎え撃つは、元バディンの王女、魔戦姫三号体クラウディア一体のみ。無論、彼女が危うくなったら割って入るため、フレオールの率いるアーク・ルーン兵らが待機している。


 今回の実験場と選ばれたのは、見晴らしの良い平地。そこに武装した約一万五千のアーク・ルーン兵と、二千三百弱の武装解除しているコノート兵が見守る中、クラウディアは四百三十三名と対峙しており、


「……放てっ!」


 ドッヘルの命に応じ、百人以上の弓矢を手にしたコノートがまず動く。


「ハアアアッ!」


 クラウディアの発した気合いと共に隆起した地面が土壁を作り、降り注ぐ矢の雨をことごとく防ぐ。


 アーク・ルーンに捕らえられた際、クラウディアは乗竜たるアース・ドラゴンを倒され、竜騎士でなくなった。そして、そのクラウディアを人間でなくす際、ベダイルは角や羽をつけただけではなく、竜騎士であった際に使えたドラゴニック・オーラや大地を操る能力を身に着けさせている。


 七竜連合はその滅亡までにアーク・ルーンに数多の竜騎士を討たれた。その一部を回収して提供されたベダイルからすれば、実験材料はいくらでもあり、竜騎士の死体をいくつもいじくり回した成果が魔戦姫三号体であった。


 乗竜を失った竜騎士は無力化するが、竜騎士であった痕跡のようなものは残ることを突き止めたベダイルは、人の形のままドラゴンと契約せずとも、ドラゴンの能力を振るえるようにすることに成功した。


 ただ、理論的にはアース・ドラゴンのみならず、サンダー・ドラゴンやアイス・ドラゴンの能力も与えることは可能なはずなのだが、現実的にはクラウディアが行使できるのはかつて乗竜としていたアース・ドラゴンの能力のみなので、実のところ魔戦姫三号体は未完成であると言わざる得ない。


「ハアアアッ!」


 だが、その未完成な魔戦姫が能力をさらに振るった途端、弓矢を手にするコノート兵は何十人と、足元から突き出てきた土槍に貫かれていく。


「全員前進せよ! 白兵戦に持ち込め!」


 ドッヘルの指示されたとおり、四百人近いコノート兵はクラウディアに向かって駆け出し、


「ハアアアッ!」


 足元から突き出る土槍に貫かれ、あるいは跳びはねる石弾に打たれて、次々と倒される。


 ちなみにクラウディアの前には土壁が立ったままなので、彼女からはドッヘルらの姿は見えないのだが、その点はあまり問題ではない。


 すでに人でないクラウディアの知覚は、遮二無二、向かって来るコノート兵の足音を聞き分け、気配を感じ取っており、大まかな位置情報をリアルタイムで把握している。


 それでも、さらに百のコノート兵が討たれる間に進み続けたドッヘルらは土壁の左右に回り込み、クラウディアを挟み撃ちにしようとしたが、


「ハアアアッ!」


 その意に応じて激しく揺れ出した地面のためにその足が止まるどころか、手や膝を突いてマトモに立てない状態となる。


 そして、背中の羽をはばたかせ、マトモに立てない地面から離れたクラウディアが、


「ハアアアッ!」


 眼下のコノート兵の一角に放ったドラゴニック・オーラは、シィルエールやイリアッシュをはるかに上回る、膨大なものであった。


 これもベダイルの成果の一つである。


 七竜姫の中で二番目に強かったクラウディアだが、ドラゴニック・オーラの総量では三、四番手に位置していた。


 ドラゴニック・オーラはその総量よりも、どれだけうまく使いこなせるかが重要ではあるが、総量が多いに越したことはない。


 ベダイルもそう考え、多量のドラゴニック・オーラを発現できるように調整されたクラウディアは、ドラゴニック・オーラの雨を降らせ、コノート兵を次々と撃ち倒していく。


 白兵戦に移っているコノート兵らには、宙にあるクラウディアを攻撃する術はないと思われたが、


「……槍をっ! いや、手にする武器をあの女に投げつけよ!」


 ドッヘルが形振り構わぬその指示に応じられたコノート兵は百五十に満たぬ。


 しかも、頭上へと放たれた武器の大半は、クラウディアのいる高みに届くことはなかった。羽ばたくクラウディアのいる高さに達したのは、数本の槍のみ。


 だが、その内の一本、ドッヘルの投げ放った槍は、クラウディアの左の頬をわずかにかすめる。


 無論、カスリ傷ひとつ、何ということもない。加えて、今のクラウディアはある程度の傷は勝手に治ってしまい、ドッヘルの槍が頬をかすめた数瞬後には、カスリ傷はキレイになくなってしまう。


 にも関わらず、カスリ傷を受けたクラウディアは、降下して大地に立ち、腰の刀を抜いて構え、残る百程度のコノート兵が投げた武器を拾うのを待ってから、


「ハアアアッ!」


 手にする刀にドラゴニック・オーラを込め、それでコノート兵を武器ごと鎧ごと両断していく。


 同胞が斬り倒されている間に、コノート兵の一部は背後に回り込むが、


「ハアアアッ!」


 クラウディアはドラゴニック・オーラで作った尻尾を振るい、後ろのコノート兵を薙ぎ払う。


 ドラゴニック・オーラを込めた刀とドラゴニック・オーラで構成された尻尾でコノート兵は薙ぎ倒されていき、大した時を必要とせず、残ったのはドッヘルと五人のコノート兵のみ。


「うおおおっ」


 覚悟は決まっている。六人は雄叫びを上げ、斬りかかっていくも、刀と尻尾がたちまち五人を打ち倒す。


 最後に残ったドッヘルは、五人の、自分の指示を受けた最後の兵が倒れた直後、クラウディアに斬りかかるが、その刃が届くことはなかった。


 ドッヘルの斬撃を紙一重でかわしたクラウディアは、すかさず反撃に転じる。


 クラウディアの刀と尻尾の一振りを、共にかわしたドッヘルだったが、それで体勢を崩して尻もちを突いてしまう。


 そこにクラウディアの刀が振るわれ、ドッヘルの首は胴体から離れて宙を待った。



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