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東征編33

 七竜連合の盟主であったバディン王国。その最期、終幕は凄絶の一語に尽きたが、バディン王家の血は完全に尽きたわけではない。


 フレオールに保護されたクラウディアが唯一の生き残りではなく、彼女の母親や妹、親類の女性らはけっこう生存している。


 ただ、彼女らはクラウディアのように保護されたわけではなく、戦利品として扱われた。


 ある意味でクラウディアも戦利品としてフレオールの下げ渡されたようなものだ。しかし、フレオールはクラウディアを気遣ったのに対して、彼女以外のバディン王家の生き残りは多少の差こそあれ、それこそ物のように使われた。


 現在もクラウディアの所有権はフレオールの手にあるのだが、シィルエール、ミリアーナ、フォーリスの面倒も見ていたこともあり、異母兄ベダイルが興味を示したので、手に余っていたバディンの元王女をその手に託した。


 ベダイルと仲が悪いフレオールだが、その人格を全否定しているわけではない。この異母兄の元で、リナルティエとマルガレッタが幸せに暮らしているのも、業腹だが認めている。


 ベダイルがクラウディアに目をつけたのは、元竜騎士という点であり、新たな魔戦姫の素体に最適と考えたからだ。そして、クラウディアはベダイルの手で人でなくなったが、リナルティエやマルガレッタのように幸せにはなった。


 もっとも、クラウディアの場合、リナルティエよりはるかに不幸な境遇にあり、ベダイルに依存しなければ心が保てない状態であったというのもあるだろう。


 有耶無耶の内に異母弟から手に入れたクラウディアに、ベダイルも色々と気遣った。その一つに、彼女の縁者を助けるのを援助した。


 元々、クラウディアが東の地に来た理由は、戦利品となった血縁を買い取るためだ。そのための資金はベダイルが用意したし、便宜も計ってくれている。金に糸目をつけねば難しい買い取り交渉ではなく、実際にクラウディアはわかっている限りの血縁の所有権を手に入れた。


 が、助けられた側からすれば、遅すぎた。


 無論、クラウディア自身、身内をすぐに助けられる状態になかった。ベダイルに素体として選ばれた縁とはいえ、自身を人で無くした相手を信じられるようになり、身内のことを相談できるまでの関係になるまで、相応の時日を必要としたのも当然のことだろう。


 しかし、来る日も来る日も男たちに犯され続けた女たちからすれば、クラウディアの救いの手を差し伸べるまでの時日は正に生き地獄であった。


 その生き地獄のような日々で体がボロボロになっただけではない。女の半数は正気を失っており、礼を言えるような状態ではなかった。


 そして、過酷な環境の中、辛うじて正気を保っていたもう半数は、


「……何でもっと早く来なかったのよ!」


 礼どころか、クラウディアをなじる始末だ。


 国が亡びてより彼女たちが舐めてきた辛酸を思えば、それと無縁であったクラウディアを、あまりの世の不公平を恨むのも無理はないだろう。だが、身内が舐めさせられた辛酸など思いもよらぬクラウディアからすれば、助けた身内、それも実の母や妹からも罵声を浴び、ただでさえ不安定で弱っている心に強い衝撃を受けずにいられなかった。


 助けた身内からの罵声に心が砕けかけたクラウディアが助けたを求めたのは、言うまでもなく主たるベダイルである。ベダイルも自分の作品を労り、彼女に戻って来るように言った。


 相手に依存し、己の不安定で弱った心を保とうとする点は、シィルエールらと同じではある。ただ、クラウディアの場合は一方的に甘えるのではなく、ベダイルの役に立つという充足感で己を守ろうとした。


 かくして、必死に役に立とうとし、できることはないかと尋ねるクラウディアの精神状態を察したベダイルは、異母兄ネドイルに実験協力を要請し、それが巡り巡って異母弟のフレオールに面倒が回って来た結果となったのだ。


 フレオールとしてはコノート兵を気の毒に思いつつも、クラウディアの件は元をたどれば自分にも責任のあることゆえ、その精神安定に努めねばならなかった。


 その心情や心中に関係なく、アーク・ルーン軍の軍人であるフレオールは、その出所や理由はどうであろうと、上からの軍令には従わねばならない立場にあるのだから。



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