表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
458/551

東征編31

「全軍撤退! 一度、退き、態勢を立て直す!」


「生き残っている者は南へと走り、友軍と合流せよ!」


 新手のコノート軍の出現というわけのわからぬ事態に、真っ先に反応したフレオールとジルトの指示は、共に戦いを切り上げるというものであった。


 コノート軍の約七割を討ったアーク・ルーン軍だが、戦死者は大して出していない。新手のコノート軍とそのまま戦うことも可能な戦力を保有している。


 このジルトたちが全滅しようと矢先、新たに戦場に姿を現したコノート軍は、フンベルトの指示で送り出され、ドッヘルが指揮し、エリシェリルの同行する三千であるが、そのことはフレオールもジルトも知らない。


 フンベルトがリムディーヌといったアーク・ルーン側のみならず、エドアルドやダルトーにも伝えずに兵を動かしたからだ。


 アーク・ルーン側の許可を得ようとすれば、それに時間がかかって機を逸することになりかねない。また、エドアルドなどに告げれば、アーク・ルーン側に無許可で兵を動かすことを問題視して、ドッヘルらに待ったをかけるだろうから、やはり間に合わないことになりかねない。


 エリシェリルがドッヘルを急かしたのもあるが、アーク・ルーンへの降伏を伝えられたマヴァル兵に進軍を妨げられなかったこともあり、フンベルトの独断専行はジルトが討ち死にする前には到着させることはできた。


 ちなみにエリシェリルたちと、コノートに戻る九千は異なる道を通ったので、両者は互いの存在に気づかぬままにすれ違ったのも、ジルトが死体と対面せずにすんだ一因であっただろう。


 ともあれ、フレオールもジルトも状況がわからぬまま兵を動かす愚をわきまえているから、賢明にも共に仕切り直しという指示を出しているが、


「皆の者、同胞を助けよ! アーク・ルーンを追い払えっ!」


 思わずドッヘルが天を仰ぐ命令をエリシェリルが下し、それに三千のコノート兵が従って動いた。


 ダルトーやヴェーダといった何百という同胞が骸となって転がっており、立っている同胞も傷ついているのだ。状況が正確にわからぬのはエリシェリルたちも同様であり、だからこそ同胞の救援に躍起になって向かった。


 これに最も慌てたのは、ジルトである。


 ジルトたちとエリシェリルたち、その合計は三千三百程度。アーク・ルーン軍は一万五千。済し崩しに第二ラウンドが始まれば、勝つのはアーク・ルーン軍であり、蹴散らされるのはコノート軍の方だ。


 ここは三千のコノート兵は牽制の構えを取るに留め、アーク・ルーン軍が引き上げるのに任せ、それに合わせて引き上げつつ、ジルトたちを回収すべき局面であるのだ。


 状況がわからぬまま戦うのは避けたいとはいえ、状況がわからぬといって戦わぬわけにはいかない。コノート兵が向かってくれば、フレオールはこれを蹴散らすように命じるだろう。


 ジルトとしては、すぐにエリシェリルに合流して、攻撃をひかえるように伝えねばならないのだが、彼と友軍の間にはアーク・ルーン軍がおり、火を放った時のように大きく迂回する必要がある。


「全軍、足を止めろ! 撤退を中止して迎え撃つ!」


 コノート軍の新手の愚かさにフレオールは渋面となりつつ、方針を撤退から迎撃に変更する。


 練度の高いアーク・ルーン軍はたちまち迎撃の態勢を整え、隊列を乱して突っ込んで来るコノート軍を受け止め、そして押し返し出す。


 勢いを止められたコノート軍は、このままではアーク・ルーン軍に突き崩され、敗走するだろう。当然、そこに追撃をかけられたなら、戦場に転がるコノート兵の骸は倍、いや、三倍に達するかも知れない。


 さらに劣勢にあるコノート軍の足元を激しい揺れが襲う。


 コノート軍の足元のみで生じる、激しく振動する不自然な揺れは、その上に立つ者らも動揺させ、コノート兵は足をもつれさせながら、次々と敗走を始めていく。


 コノート兵が敗走を始めた途端、揺れは自然と収まっていったが、


「ヘタに追うな! とにかく、周りを、足元を警戒しろ!」


 不可解な状況が警戒心を刺激したらしく、士官たちが呼びかけるまでもなく、兵士らも敗走する敵を見送りつつ、周囲を警戒する。


 フレオールはもちろん、好戦的なグォントさえも追撃を禁じるよう命じている。


「……どうした? なぜ、追わない?」


 聞き覚えはあるが、一年以上は聞いていない声が、フレオールの頭上からいぶかしげに問いかける。


 その声と存在に気づいた者たちは次々と空を仰ぎ、その姿に見覚えのある者も何人かおり、フレオールもその一人であるのは言うまでもない。


 だが、頭から一対の角を、背中にはコウモリ状の一対の羽を生やす、以前とは異なる姿を見るのはフレオールも始めてであった。


 元バディン王国の第一王女クラウディア。


 今は元王女どころか、元人間となった、魔戦姫三号体クラウディアは、背中の羽を使いこなし、慣れた様子でフレオールの側に着地した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ