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東征編9

 西の城塞における攻防によって、多数の兵のみならず、守りの要衝を失ったマヴァル帝国は、一挙に約二十万のアーク・ルーン軍を敵に回すこととなった。


 マヴァル軍を大破し、西の城塞を占拠した第十三軍団が別の軍団と合流したわけではない。


 離反したマヴァル貴族や決起したマヴァルの民、マヴァル帝国における反乱勢力が次々と東へ走り、アーク・ルーン軍の元に集結したため、侵略者は新たに十万の兵を得たのだ。


 もちろん、第十三軍団の元にマヴァルにおける反乱勢力が全て集結したわけではない。地理や距離の問題などで、東へと向かえぬ者たちもかなりの数がいる。さらにマヴァル軍の敗報が伝わると、祖国に見切りをつけるマヴァル貴族、決起に踏み切るマヴァルの民が大いに増え、マヴァル帝国は何十万も敵に回している窮状にあった。


 もっとも、味方が増えるのは良い点ばかりではない。合流を計る反乱勢力の存在によって、その対応のために第十三軍団は進軍を停止せねばならず、マヴァル帝国に残存兵力を結集させ、帝都の守りを固めるだけの時間を与えてしまっている。


 ただ、それは最後の悪あがきをする時間を与えているにすぎない。


 帝都に兵を集結させるということは、地方の兵を減らすか無くすかということだ。反乱の増加・悪化もあり、保持するだけの兵がいなくなった地方は離反していき、遠からずマヴァル帝国は帝都一帯を掌握するのみという情勢になりつつある。


 そうとなれば、アーシェアも進軍を急ぐ必要はない。


 マヴァル帝国の帝都は大国に相応しいだけの大人口を擁している。その周辺も多くの人々が暮らしている。そして、これはマヴァルに限らずほとんどの国がそうであるように、国の中心部は地方との人や物の流れややり取りで成り立っているのだ。


 その地方からの物流が衰え、正常に機能していないならば、国の中心部で暮らす者たちの生活も成り立たず、破綻していくのは目に見えている。


 自滅が明白な以上、マトモに戦う必要はなく、むしろマヴァルの自滅を促進させる手を打つべきなので、


「ムーヴィル卿は三個師団を以て、マヴァル北部の攻略に当たってもらいたい。フレオール卿は同じく三個師団を率い、南部の攻略に赴いてもらいたい」


 アーシェアは副軍団長と副官に一万五千ずつを与え、地方を積極的に抑えにかかり、帝都のより早期の孤立を画策した。


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