南方編25
凌遅刑はミベルティン帝国で行われていた刑罰だが、その長い歴史の中でもさして実施されていない。よほどの重罪人にしか適用されなかったからだ。
その処刑法は残忍にして酸鼻を極める。何しろ、罪人の肉を少しずつ切り落としていくことで、少しでも長く苦痛を味合わせながら死に至らしめるというものなのだ。
ちなみにベルギアットの謀略で反逆者に仕立てられた、ミベルティン帝国の将軍エクスカンも、この凌遅刑で命を落としている。
斜陽の祖国を懸命に支えようとした名将の最後は、ミベルティン帝国の臣下一同に大きな心理的衝撃を与えた。リムディーヌでさえ、中央から距離を置き、出る杭になって切り刻まれぬよう、祖国のために積極的に動かなくなったほどだ。
その凌遅刑を、レミネイラはミベルティンの歴史の数百倍に及ぶ人数に実施したが、今から全身を切り刻まれて死んでいく者たちは、正確には罪人ではない。
最後までアーク・ルーンの侵略を良しとせず、徹底的抗戦の末に果てた者たちの家族が、レミネイラの命令で凌遅刑の処刑台に縛られているのだ。
今、一同の前で老若男女を問わずに切り刻まれようとしている者の数は五十人ほど。無論、これは凌遅刑にかけられるごく一部でしかない。
今回の凌遅刑が執行される場所は、旧精霊国家群の各地に及ぶ。対象者だけならば、一ヵ所に集めるのも可能であったが、さすがに処刑執行人たちを一ヵ所に集めるのは無理があった。
何しろ、処刑台に縛られる者たちを切り刻むのは、まったくの素人たち、対象者と同郷であるという理由で小刀を持たされることになった者。
身内が徹底的抗戦したという理由で刻み殺されるだけではなく、その処刑を顔見知りに行わせるというのだ。
さすがに子供に刃を持たせていないが、それでも未成熟な心と体の持ち主はこの場から遠ざけられることはなかった。
反逆者となれば、自身のみならず、家族も殺される。しかも、その残酷な処刑を執行するのは隣近所の者たち。
新たな支配者がどれだけ罪と断じようが、それまで同郷の者として親交のあった者を自らの手で切り刻まねばならないのだ。それも我が子の前、である。無論、拒めば反逆の意志ありとして、自身も家族も刻み殺されることになる。
もちろん、顔見知りを刻み殺す者も、自分の親が刻み殺すところを目にする子供にも、暗い過去を負うことになる。つまり、この凌遅刑は肉体のみならず、故郷にさえ見えざる刃を加えてくるのだ。
「つまり、うちに逆らえば、生まれ育った場所さえも無茶苦茶にされる。それを心に刻みことが目的だそうだ」
フレオールが語るように、それが将軍となった元王女の狙いであり、そうした一手がいかに効果的であるかは、彼の傍らにいる、心を病んだ三人の元王女の存在が何よりも雄弁に物語っていた。
意図こそ違うが、バディン王家の末路に携わった結果、弱り切っていた王女たちの心にトドメを刺した。
「それでは、処刑をスタートしてください」
明るいレミネイラの声を合図に、投降者の心を完全にくじくべく、陰惨な処刑が始められた。
ストックが完全になくなったので書きたまるまで更新を停止します。




