過去編3-3
「……なんや、レミ嬢ちゃん、か……」
ぎこちなく片手を上げる動作と弱々しいしゃべり方。それは並んで置かれるサルべえ、ブタきちと同様、クマぞうにも終わりの時が近づいてきているからであった。
スリープ・モードで悠久の時を奇跡的に保ってきたクマぞうたちだが、その奇跡のタネもレミネイラとの出会いで尽きようとしていた。
「……まったく、人妻をこんなトコまで、足を……運ばせる……ワイのダンディな……魅力にも、困ったもんやで……」
「まったくだ。だから、もうしゃべるな、クマぞう」
遺跡の出会いから十年以上。レミネイラはすでに嫁ぎ、先日、娘を出産している。
レミネイラにとって不幸中の幸いは、夫が王都に邸宅を構える有力貴族であり、地方や他国に嫁かずにすんだ点だ。
子供の頃とは比べるまでもないが、それでも年に数度は遺跡に訪れることはできた。
もっとも、レミネイラが結婚した時には、サルべえとブタきちは電池切れを起こしており、クマぞうもしゃべりも動きも鈍くなっていたが。
「……なん……や……ワイは、いつでも……全開バリ……バリ、やで……」
静かな遺跡に辛うじて響く声は、その終わりが近いことを何よりも雄弁に物語り、レミネイラの瞳が潤み出す。
クマぞうも自らの終わりが近いことを自覚しており、
「……レミ嬢ちゃん……嬢ちゃんは、もう、ワイ、らで……遊ぶ年や……ない……」
「……けど、けど、クマぞう……」
「……泣い、たら……アカン……レミ嬢ちゃん……あんじょう……気張りぃ……や……」
「ああ、ああ、頑張るよ、クマぞう」
奇跡をつなぎ止めていたど根性も途切れ、動かなくなったクマぞうに涙ながらに答えるレミネイラだが、しかしそれはクマぞう、ブタきち、サルべえの求めたものではなかった。
「私、また、みんなで遊べるように頑張るから」
地方や他国に嫁かずにすんだ不幸中の最大の幸運は、夫に連れられた王宮でのパーティで、アーク・ルーンの実質的な最大権力者に見初められたことだろう。
クマぞうたちと出会ってから十年以上。レミネイラはすでに子供ではない。
泣いてもどうにもならぬことを知っている。
そして、自分にとって最も大事な存在が何であるかも知っている。
何より、失ってはならないものを失った少女は、それを取り戻す方法があることを知った。
だから、彼女に迷いはなかった。
失ってはならないものを取り戻すために、その他の全てを踏みにじることに。




