過去編3-2
「止めて! ブタきちとクマぞうをいじめないで!」
レミネイラの必死の訴えも虚しく、彼女の二人の兄は蹴りつける足を止めることはなかった。
自分をいないものとして扱う家族の中で、二人の兄だけはレミネイラに対する態度が違った。
彼らは暇をもて余している時にレミネイラを目にすると、髪の毛をつかんで人目のない場所に引っ張っていき、殴る蹴るの暴力を加える。
よほど暇な時など、レミネイラをいじめるためにわざわざ彼女を追って遺跡に来るほどだ。
もっとも、誰も味方がいない王宮と違い、遺跡にはクマぞうたちという味方がいる。
遊び場としている遺跡の構造を把握しているのもあり、遺跡においては兄たちとの鬼ごっこでレミネイラが捕まることがなかった。
その時以外は。
いつものように遺跡に踏み入って来た兄たちから逃げ回っている最中、サルべえに続いてブタきちが急に動かなくなったのだ。
ブタきちを置いて逃げれば、レミネイラとクマぞうはいつものように逃げ切れただろう。しかし、兄たちの性格を知るレミネイラは、ブタきちを抱えて逃げようとし、二人の兄に追いつかれた。
レミネイラはクマぞうとブタきちを守ろうと、その上に覆い被さると、二人の兄は笑いながら妹の背中を蹴りまくった。
小汚ないぬいぐるみを守ろうとする妹の必死な姿がカンに触ったか、二人の兄たちはいつも以上に力を入れて蹴り続けた。
この時、レミネイラは酷い打撲と内出血、骨にもひびが入っていたが、それだけならば後年、他の家族と同様、二人の兄をあっさりと殺しただろう。
しかし、双方にとって不幸なことに、二人の兄が振るう足が何度もクマぞうやブタきちに当たっていた。
彼女の最も大事な存在を傷つけた両名は、後にアーク・ルーンで最も過酷な悪魔刑、悪魔たちに延々といたぶられ、苦痛を与え続けられる身となっている。
クマぞうたちの愛情しか知らず、それしか心の拠りどころがない幼少期。
それが今のレミネイラを生み出した。
正確には、無力な一人の娘を、魔法帝国アーク・ルーン最凶の名将へと脱皮させたと言うべきだろうか。




