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南方編11

 戦は守る方が有利だが、物事には限度がある。


 マヴァル帝国の弱小貴族が反旗をひるがえした。正確には、自宅にアーク・ルーンの旗を立てたのだ。


 魔法帝国アーク・ルーンとマヴァル帝国は現在、交戦状態にある。しかも、ロペスの地と西の国境での戦い、竜騎士による空襲によって甚大な被害を被っており、マヴァル帝国はアーク・ルーンへの敵意と憎悪にたぎっている。


 だが、同時にアーク・ルーンを怖れる者も少なくない。その一部がアーク・ルーンの、竜騎士の空襲を逃れるため、アーク・ルーンの旗を門前に立ているほどだ。


 密偵を使い、アーク・ルーンはマヴァル国内に、その旗を立てればその矛先とドラゴンの牙をかわせるとの噂を流布している。そして、その点を軍と竜騎士に徹底させているので、アーク・ルーンの旗を立てたマヴァル貴族の館の上空を竜騎士たちは素通りした。


 たしかにそれでアーク・ルーンの矛先をかわせたマヴァル貴族だが、マヴァル軍の怒りまではわかせなかった。


「アーク・ルーンの矛先をかわすための、一時的な方便だ。祖国マヴァルを裏切るつもりはない」


 そのような主張と抗弁は通らず、マヴァル軍の矛先は国の内外を問わずに、アーク・ルーンの旗に向けられた。


 弱小貴族など小さな館を身内と家臣、かき集めた領民で守るのが精一杯。守り手が百いるかいないかの、いくらか頑丈な邸宅など、一千や二千の兵で攻めれば、ひとたまりもない。


「反逆者を討てっ!」


 その日も指揮官の号令一下、一千のマヴァル兵が、アーク・ルーンの旗を門前に立てた小さな館に攻めかかったが、戦闘そのものは呆気なく終わった。


 殺到するマヴァル兵にまず駆り出された領民が逃げ出すと、残りは領主一家を含めて二十といない。後はよってたかたって斬り殺され、

しかしマヴァル兵にとって本番はこれからだ。


 勝利に酔うマヴァル兵は反逆者の館で略奪を始め、それではおさまらずに領民たちにも、反逆者に加担したとして襲いかかる。


 アーク・ルーン軍などの一部の国の軍律が良すぎるだけで、マヴァル軍のように戦場の蛮行、略奪・放火・殺戮にふけるのが軍の当たり前の実態だ。


 マヴァルの民はマヴァル兵に奪われ、犯され、殺された。指揮官は兵の蛮行を押さえるどころか、


「集落に反逆者の残党がいるかも知らん。怪しき者、抵抗する者は、速やかに討てっ!」


 手柄というのは挙げた首級の数で決まる。実態はどうあれ、領民を一人でも多く反逆者として殺せば、それだけ自らの考課表が良くなるというもの。


 これはマヴァル軍に限らないが、軍には軍監という目付けが従軍している。軍監の役割はその軍で不正が行われないように監視し、不正が行われていた場合は軍部に報告することだが、略奪品の一部も渡せば、見てみぬふりをしてくれる。


 もちろん、軍監の中には不正に加担しないという者もわずかにいたが、彼らは「流れ矢」で死ぬことが多く、長生きできない。


 一方で、軍律を守る真面目な指揮官は軍監にワイロを送らないので、その軍に「不正」があったと報告されて処刑されて消えていく。


 幸い、この軍の指揮官と軍監は同じ穴のムジナ、実に良好な関係を築いており、


「閣下。労役に駆り出された民の一部が逃げ出したそうです。これをただちに討てとのことです」


 軍の使者が伝えてきた命令に、指揮官は舌打ちせずにいられなかった。


 労役から逃亡した民は着のみ着のままで逃げており、殺しても集落を襲うような実入りは期待できない。とはいえ、命令を受けた以上、一定の戦果を挙げねば、自分の地位が危うくなる。


「何を悩まれております。逃亡した下民を討ったとすれば良いだけではございませんか」


 卑しい笑みを浮かべる軍監の言葉に、さすがに指揮官も眉をしかめた。


「そんなマネをして、現地から報告がいけば、すぐに露見するぞ」


「大丈夫ですよ。その地には小官の知り合いが幾人もおりますから。ただ、多少の費用はかかりますが」


 もっとワイロを寄越せば、ウソの報告がバレないよう工作してやるということだ。


 指揮官は苦笑しつつ考え込んだが、そう長い時間ではない。


 何しろ、彼の目の前には、反逆者として捕らえれた若い娘が数人、転がっているのだ。


「その費用、いくらかまけることもできますぞ」


「わかったわかった。二人ほど連れて行け」


 両者の間で交渉が成立するや、獣欲にギラつく顔に満面の笑みを浮かべ、軍監は従卒に小柄な二人の娘を自分の天幕に連れて来るように命じる。


 当然、指揮官も残りの娘を自分の天幕に連れて来るように命じた。


 獣欲に染まった笑顔を浮かべて。


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