南方編5
フレオール、フォーリス、シィルエール、ミリアーナがベーヅェレの先導で大天幕を中に入った一同がまず目にしたのは、
「……何やと! まだワイらに降参せえへんちゅうんかっ!」
本来ならレミネイラが座すイスにて右手の中指をおっ立てているのは、頭にトサカを生やしてグラサンをかけた、人の膝下くらいのサイズのクマのぬいぐるみだった。
そのぬいぐるみの前で、
「イエ~イ、イエ~イ」
手にするタンバリンを鳴らす、可愛い顔立ちに無邪気な笑みを浮かべる、茶味がかった金髪を三つ編みにした娘がフォーリスくらいに見えるのは、その振る舞いと幼さを残す容姿のせいであろう。
アーシェアと同い年、バツイチでコブつきだった、クマのぬいぐるみの前で、卑屈そうなブタのぬいぐるみや、イタズラ好きそうなサルのぬいぐるみと共に踊るその娘こそ、
「……あれがレミネイラ将軍だ」
フレオールの紹介で元王女であることを知った三人の元王女は、目を丸くする。
客人の前でもいつも通りの上官の態度に、ベーヅェレのみならず、この場に居合わせる数人の師団長らも、何とも言えない表情を浮かべているが、
「レミ嬢ちゃん。どうやら、敵はワイらをローカルネットのマスコットやと思うて、なめてケツかるで」
「イエ~イ、なめてんぞ、なめてんぞ」
「ブタきち、サルべえ。地元に愛されて五年と三ヵ月。ナニワのマスコットの心意気を見せたろうやないか」
「ブヒッブヒッ」
「キ~ッキ~ッ」
「イエ~イ! 行け行け、クマぞう! ガンバレ、クマぞう!」
タンバリンを鳴らしながら、ブタきちやサルべえと踊り回り、クマぞうに合いの手を打つ。
「……あの人がレミネイラ将軍?」
フォーリスやシィルエールと共に目を点にしているミリアーナのつぶやきに、
「レミネイラ将軍だ」
フレオールが肯定すると、ベーヅェレは深々とため息をつく。
師団長たちと同様、上官の振る舞いに心底、呆れ返っている副官だが、大宰相の異母弟を待たせるわけにはいかないので、
「……閣下。フレオール卿が参られました。先に男爵のあいさつをうけられますか? それとも、軍議が終わるまで待っていただきますか?」
歩み寄ったベーヅェレに耳打ちされたレミネイラは、露骨にイヤそうな顔をする。
「え~、今、クマぞうたちと遊んでいるんだけど」
「閣下。フレオール卿の事はともかく、軍議だけは、方針だけは決めてください。敵が残党と侮っておられるか!」
「その残党の八割がこちらと通じている。遊んでいても、残り二割の首を持って降る」
無邪気な娘の顔を一変させ、冷酷な表情と声音で副官を、否、部下と客人たちを圧倒すると、
「イエ~イ、イエ~イ」
再びタンバリンを振り出す。
無邪気な偽りの笑顔で。




