表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
388/551

帝都編49

「帝都より連絡があった。まだ検討段階であるが、オクスタン侯爵家を取り潰す方向で話が進んでいるらしい。とりあえず、正式な決定として、領地没収は免れぬそうだ」


 先日まで故ヴァイルザードがふんぞり返っていた領主の執務室にて、メドリオーはザジール、エイロフォーン、アーシェア、そして軟禁が解かれたフレオールと、反乱の首謀者ヴェンとその息子ベックに、今回の騒乱の非が、全面的にオクスタン侯爵側にあると裁定されたことを暗に告げた。


 クスグムらのような者たちが排除されて煽動者がいなくなると、反徒たちの怒りと反抗心は鎮まる一方となっていき、オクスタン侯爵領の反乱は着地点を取り決める段階にきていた。


 ヴァイルザードやラインザードへの処置を含め、領民の信頼回復に努めたメドリオーの努力は無駄ではなく、首謀者であるヴェンが領主の館にいても反徒が騒がぬほどになっている。


 随行しているベックは父親の身を案じてというより、尊敬する敵将に接する口実のためというほど、メドリオーに敬服している態度を見せているが、これは彼ひとりに限ったことではない。


 かつてミベルティン戦役で勲功第一とされたメドリオーは、まず部下たちを厚く賞することを求めた後、

「無実の罪で処刑されたエクスカン将軍の名誉回復を計っていただきたい。また、エクスカン将軍の遺族が不遇な立場にあるなら、これを手厚く保護していただきたく存じます」


 ミベルティン帝国の名将エクスカンは、メドリオーを負傷させて撃退したが、そのためにベルギアットの謀略で反逆者に仕立てられ、味方の手で殺されてしまった。


 勝利のために仕方なかったとはいえ、エクスカンを謀殺したことを気に病んでいたメドリオーは、偉大なる敵将の不名誉をすすぐことに尽力した。


 その姿勢と性格は今も変わらず、メドリオーは反徒のために慰霊碑を建て、それに参って彼らに自分たちの非を詫び、その冥福を祈った。


 外にまだ反乱軍の野営地があるとはいえ、ケペニッツ城市の城門は閉ざされておらず、市民は落ち着いていつもの営みに戻っている。


 オクスタン侯爵領の混乱はおさまり、これから今回の混乱による傷痕をどう復旧していくかを話し合うこの場で、中央から通達された内容をメドリオーを告げられた一同の中で、唯一、驚いたのはベックのみ。


 他の面々は怪訝な反応をしている。


「メドリオー殿。私も息子もアーク・ルーンの政治的な判断とやらに詳しくありません。わかり易く説明していただければ、ありがたいのですが」


 驚く息子と違い、ヴェンが他の者と同様、いぶかしげな顔をするのは、自分たちに有利な裁定に、自分たちとは関わりのない思惑があるように感じられ、そこにフレオールらも違和感めいたものを覚えたからだ。


「ふむ。では、ヴェン殿はどの辺りが理解できぬのかな?」


「私も下っ端とはいえ、アーク・ルーンの政務に携わっていた身です。ネドイル閣下のおかげで、皇族や貴族の横暴が法で規制され、また、施行された護民法も照らし合わせれば、オクスタン侯爵家の領地没収や取り潰してはありえない裁きではないと思います。ですが、前の領主であるロストゥル様は功の多き方。普通ならば、それに配慮した裁定となるのではありませんか?」


 魔術師であらねば人にあらず、と豪語していた旧来のアーク・ルーンの法と違い、ベフナムが司法大臣となって以来、皇族貴族であろうと民に無体を働けば刑罰を受けるようになった。さらに護民法が制定され、民の生命財産はより厚く守られるようになっている。


 何人であろうと、魔法帝国アーク・ルーンでは罪なく民を害することはできない、というのが基本原則ではあるが、例外がないわけではなく、その端的なものがサムの略奪だ。


 民への配慮を重視するアーク・ルーンだが、より厚く遇するのは才と功だ。


 ロストゥルの功績の数々を重んじて、ヴェンたちに不当な裁きを与えることは充分に考えられ、


「罰として領地は没収し、後にロストゥル様の功に報いる形で新たな領地を与える。そのような形式で充分なはずなのに、なぜ、オクスタン侯爵家の取り潰しを表立って検討しているのですか?」


 オクスタン侯爵はラインザードであろうが、前当主であるロストゥルの功績と存在を無視するわけにはいかない。


 だから、基本原則を形だけ守り、公式には領地没収という罰を与える。然る後に、ロストゥルの功に報いるという名目で、新たな領地というより、代替地を提供して形だけの処分に留める。


 ヴェン側はマトモな統治が行われればそれで良く、オクスタン侯爵家の側にも実質的な処罰はない。これで終わらせ、これ以上、もめる理由は、


「率直に言えば、わしにもわからん。何かしらの裏面の事情はあるのだろうが、その情報はこちらに伝わっておらぬからな。ただ、連絡事項から外れているということは、我らに告げる必要がないということなのだろう。こちらはそのようなことを気にせずに、粛々と此度の後始末に取りかかれば良い」


 話を裏を探ることから表側に引き戻す。


「たしかに、そのとおりです。無用な言を吐きました」


「困惑しているのは誰もが同じだ。そうしたものを含めて話し合うのが会議というものだ」


 頭を下げるヴェンに、メドリオーは気にするなといった態度で応じてから、


「今後のことについて、主な伝達事項は二つ。まず、ラインザードは正式な処分が決定するまで謹慎が命じられた。当然、第十三軍団の軍団長への就任は撤回され、代わりに二人の副軍団長の内、アーシェア殿が軍団長となることになった」


「私がですか! 先任のムーヴィル殿の方が適任ではありませんか?」


 何もしない内に出世した元王女は、驚き、疑問を呈する。


「わしの祖国でも貴殿の祖国でもそうなのだろうが、アーク・ルーンでは珍しくない人事だ。ここだけの話だが、わしも内々に相談を受けていてな、貴殿なら一軍を率いるに足ると答えておいた。今は内示の段階だが、すぐにでも正式な辞令が届くだろう」


「しかし、新参の私が軍団長など、と……私にはとても、メドリオー閣下のような用兵はできません」


「それでは、わしの面目がない。わしが貴殿の年には、百の兵を統率するのにも四苦八苦しておった。あの頃のわしはアーシェア殿の足元に及ばんかったが、それでも経験を積み、こうして一軍を率いることができている。貴殿も軍人として生きるのなら、経験を積む機会を逃すべきではない」


「わかりました。メドリオー閣下のご評価にそえるよう、務めさせていただきます」


 諭され、うやうやしく内示を受ける。


「もう一つは直轄領となる、このオクスタン侯爵の領地だ。わしも本来の任務があり、長く任地を離れるわけにはいかん。ザジールやエイロフォーンとて、同様だ。そこで率いて来た二千の兵を含め、後任をヴェン殿にお願いしたい」


「私がですか、と言ってみたところで、決定事項なのでしょうね」


「すまんな。ただ、一つ断っておくが、貴殿をこの程度に評価しているわけではない。その点は誤解せんでもらいたい」


 ヴェンの内心とは異なる弁明をメドリオーは口にする。


 今回、ラインザードの大敗で得た教訓は、中央にも優れた将を配置しておかねばならないという点だ。


 優れた人材はどこに埋もれているか、わからない。ヴェンのような反逆者がまた現れた際、ヴェンくらいの才幹の持ち主を当てねば、再び不測の事態を招きかねない。


 メドリオーの評価は、アーシェアよりヴェンの方が上である。だからこそ、すでにアーシェアより優れた将たちが何人かいる最前線よりも、ヴェンを中央に留めた方が良いと、メドリオーだけではなく、軍部もそう判断したのだ。


 クスグムのようなやからと違い、地位を求めて決起したわけではないヴェンだが、降伏した身である以上は勝者の決定に従うしかなく、その優遇措置を受け入れるしかない。


 ヘタに逆らい、アーク・ルーンの上層部の機嫌を損ねれば、自分の命ばかりか、争乱で荒れた故郷の復興に影響が出かねない。


 それでなくとも今回の反乱によって、


「だが、その前にヴェン殿には帝都に来ていただき、ネドイル閣下と会ってもらいたい。先ほどの人事はその後のことになる」


 ヴェンとベックの顔に緊張の色が走るのは無理のないことだろう。


 メドリオーが直に手を下したとはいえ、ネドイルの甥の一人が死に、異母弟の一人が失脚したのは、ヴェンの反乱が原因である。


 アーク・ルーンの最高権力者の私怨を得たと考える親子が、顔を強張らせるのは当然だ。


 アーク・ルーンの最高権力者と面識があるがゆえ、生温かい表情を浮かべる、メドリオー、アーシェア、フレオール、ザジール、エイロフォーンと違って。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ