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帝都編44

「この度の争乱の責は、全て主謀者たる自分にあります。他の参加者の罪を問わぬと約束いただけたなら、この首は速やかに差し出しましょう。なにとぞ、この度の争乱はそれでおさめてください」


「当方は争乱の早期終結を望んでおる。武器を捨て民に戻るなら、反逆者でなくなったことを認めよう。ヴェン殿の対応はそれと異なるものとなるが、このメドリオーの権限が及ぶ限りは降将の礼を以て扱い、その命も保障しよう」


 ヴェンの降伏の申し出に対して、メドリオーは命の保障までして応じたが、これで反乱はめでたく落着とはならなかった。


 反徒たちは数で勝る自分たちが有利であると考えているし、ヴァイルザードへの恨みがおさまってもいない。さらにクスグムのようなやからは、自分たちにそれなりの地位を提示されるよう、条件面の吊り上げを目的に反乱を継続させるため、反徒たちを煽って回るだろう。


 メドリオーもオクスタン侯爵領にずっといられるわけではないので、ヴェンに約束した条件が守られるよう、ラインザードとヴァイルザードに話を通し合意を得て、逆らった領民に意趣返ししないという確証を得る必要がある。


 つまり、双方のトップがいくら合意しようが、味方の説得が不充分では反乱は完全におさまったとならないのだ。


 だから、メドリオーが兵を進めてケペニッツ城市を包囲する反乱軍の一部と睨み合いになりつつも、双方が武力衝突することはなかった。


 現在、ヴェンは反乱軍の主だった者たちの説得に取りかかり、反乱軍の解散に向けて動いており、メドリオーもアーシェアの駆るレイラに乗り、イリアッシュとティリエランも同乗させ、ケペニッツ城市の領主の館に赴いている。


 二千のアーク・ルーン兵はザジールとエイロフォーンが統率している。また、フレオール、ナターシャ、シィルエール、ミリアーナもザジールの指揮下にある。


 メドリオーとヴェンの話し合いがうまくいけば、これ以上の流血を見ずにオクスタン侯爵領の反乱が終結する、そうフレオールが事態を誤認したのも無理からぬことだろう。


 無論、話し合いがうまくいかず、反乱軍と再び戦う可能性も見落とさず、二千のアーク・ルーン兵はザジールやエイロフォーンの統率の元、不測の事態に充分に備えている。


 ザジールの指揮下にあるフレオールも、怠りなく備えているが、フレオールの見るところ、予想以上にケペニッツ城市の防備が整っており、また反乱軍の士気も低下している。


 ケペニッツ城市の守りが固い理由は、何となく想像がつく。


 ラインザードが逃げ込んだからだろう。


 ヴェンに大敗して、辛くも数百の兵と共に死地を脱したラインザードが、落ち延びたケペニッツ城市の守りを急いで固めたのは、想像するまでもないことだ。


 敗軍の将とはいえ、実戦経験が豊富で決して無能ではないラインザードの防備は的確かつ堅固なものであり、二千に満たぬ兵でも大軍に対応できるものであった。


 一方、奇跡の逆転勝利を決めたヴェンの元には、武器を持った領民たちが押し寄せ、そうして増えた物量が反乱軍の足を鈍らせ、ケペニッツ城市を大軍で包囲した時には、すっかりラインザードは防備を整えていた。


 そして、数が多くとも反乱軍は素人の集まりである。攻城兵器も攻城戦の経験もない。


 これにはヴェンがいかに知恵を絞ろうがどうにもならず、数に任せての城攻めはラインザードによって撃退され続けた。


 ヴェンの大勝利に便乗する形で決起した後発の反徒らは、ケペニッツ城市の攻略がうまくいかず、その勢いが衰えたところに、メドリオーの率いるわずかな二千に連戦連敗する事態を耳にし、それによって生じた不安が反乱軍の士気の低下を招いたのだろう。


 自軍に発生した不安要素に加え、メドリオーの巧妙な戦い方を把握しているヴェンは、優れた才幹の持ち主だけに勝ち目がもうなくなったのを悟り、うまい負け方に思考をシフトしており、メドリオーに降伏の使者を送ったのだ。


 メドリオーもヴェンも理知的で現実感覚にも秀でているので、すんなりとトップ合意が成り、後は互いの味方を納得させる段に移っている。


 元上官であるメドリオーの意向に、ラインザードが逆らうことはないだろう。ヴァイルザードはごねるかも知れないが、あくまで領主代行でしかないので、最終的には領主である父親に従うしかない。


 フレオールが身内であるので、メドリオーの護衛が若く美しい女性ばかりになった点も、ヴァイルザードが悶着を起こすタネになるかも知れないが、メドリオーもラインザードも今回の反乱は自分たちに非があるのを心得ているので、反乱がこのままおさまるか否かは、ヴェンが味方を納得させられるかにかかっている。


 ヴァイルザードの暴政で領民の信頼を失っていることを思えば、ヴェンの言葉でも反乱軍がこのまま矛をおさめるのは難しいが、その辺りはメドリオーも承知しているので、何かしらのフォローをするだろう。


 そうしたフレオールの考えと読みは間違っておらず、レイラに乗ったメドリオーらがケペニッツ城市に赴いてからそれなりの時が経つと、ケペニッツ城市の城門が開き、数名の市民が反乱軍へと向かったという報告が、ザジールやエイロフォーンと共にいるフレオールの元に届いた。


「メドリオー閣下の反乱軍に対する処置について、ヴァイルザードやライ兄が同意したことを伝える使者だろう。こちらの言葉を少しでも信じてもらうため、市民にその役目を振ったんだろうな。もしかしたら、その中にはヴェンの顔見知りがいるかも知れない」


 巧妙な戦い方と適切な処置で、絶望的な状況をここまで持ってきたメドリオーである。フレオールが事態を楽観視するのも仕方ないであろう。


 実際にメドリオーはアーク・ルーンにとって最善の処置を行っているのだ。


 フレオールの想像が及ばぬほどの。



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