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帝都編42

 クスグムの反乱軍を打ち破った後、メドリオーはラインザードを助けるべくケペニッツ城市に向かい、ヴェンの反乱軍と対峙することは、なかった。


 むしろ、ヴェンの反乱軍との対決を避けるように、他の反乱軍に矛先を向けて、その討伐を優先させた。


 ヴェンとクスグムの反乱軍を除けば、他の反乱軍は数百、多くて一千程度で、メドリオーはその一つ一つを順次、討って回って反徒の総数を確実に減らしていく。


 ただでさえ数で劣る反乱軍は、アーシェアらを先頭に攻め寄せて来たアーク・ルーン軍の前に次々と敗れていき、各個撃破されるだけの状況に、しかし反徒たちも甘んじることはなかった。


 小規模な反乱軍は急いでヴェンの元に走り、合流を計るだけではなく、


「同胞の仇を討ちたき者は、このクスグムの元に集え」


 敗走した手下の半数を再集結させたクスグムは、方々の反乱軍に呼びかけ、約八千の反徒をまとめ上げて、メドリオーとの再戦に臨んだ。


 メドリオーの方もクスグムの動向に気づき、その再戦に応じるように動いた。


「よいか。敵に竜騎士がおり、腕の立つ者がいようと、その数は十に満たぬ。弩と弓を持つ五百は竜騎士たちを矢で射よ。倒せずとも、矢の雨で竜騎士たちの突進を阻み、動きを止めれば、それで充分。その間に、七千五百で以て二千を蹴散らせばいい。しかも、二千敵のはろくに戦えぬ補助兵だ。恐れることは何もない」


 ドラゴンの硬い鱗も、弩ならば貫ける。八千の反徒を集めただけではなく、このような適切な指示と対抗策を行えるクスグムは、決して無能な人物ではない。


 また、八千の反乱軍を山を背に布陣させた点も、基本的とはいえ元軍人ではあると言えるだろう。


 クスグムの不運は相手があまりに悪すぎたことだが、それでも三つの点を見落とさなければ、勝機はまだあったのだ。


 しかし、数十の弩を用意しただけで、竜騎士への対策を充分と考えたため、弩の射程を大きく避けてレイラを駆るアーシェアが風上に移動した途端、反乱軍の一部で騒乱が生じた。


 反徒の大半は歩兵であるが、騎兵がまったくいないわけではない。クスグムのような頭目を初め、主だった者は馬上にいるが、彼らは皆、突如、暴れ出した乗馬に振り落とされてしまう。


 ドラゴンの体臭に慣れていない生物は、おおむね、反乱軍の馬たちのような反応をするので、アーク・ルーン軍はメドリオーすら馬に乗っていない。


 恐慌をきたした馬たちが手近な人間をはね飛ばし、蹴飛ばすのが合図であったかのように、二千のアーク・ルーン軍は前後から反乱軍へと攻め寄せる。


 飛行能力のあるドラゴンに限られるが、竜騎士の利点の一つに上空からの偵察が可能な点だ。


 アーシェアはクスグムら反乱軍の集結地点を調べたのみならず、敵が山を背にしたのでその山中に通じる迂回路も上空から調べ上げた。


 アーシェアの描いた地図を元に、ザジールが三百の兵と共にクスグムたちの背後に回ったのだ。


 ザジールら三百に背後から攻撃を受け、更なる混乱に見舞われた反乱軍を、ティリエランを先頭に、フレオール、イリアッシュ、ナターシャ、フォーリス、シィルエール、ミリアーナがそれぞれ百の兵を率いて、

正面から襲いかかる。


 続いて、メドリオーが八百の兵でティリエランらの突撃を支援し、エイロフォーンが二百の兵と共に、ことさら、側面に回り込む動きを見せつけ、反乱軍をさらに動揺させんとする。


 クスグムが見落とした点で最も致命的であったのが、二千のアーク・ルーン軍をいつまでも補助兵と見たことだ。


 先にクスグムと戦った時と異なり、メドリオーの元、いくつもの実戦を経験し、いくつもの勝利で自信を得た彼らは、最前線で戦うアーク・ルーン兵と遜色ないほどの精兵へと鍛え上げられている。


 二千の補助兵は今や補助兵と思えぬほど、整然と隊列を組み、指示が下れば淀みなくそれをこなし、槍先を揃えて敵の中へと踏み込む姿にも乱れは見えない。


 そのアーク・ルーン兵の先頭に立つティリエランは、父親が汚職事件を起こした身であるので、何が何でも武功を立てねばならない。


 サムほどの実力者ならオイタをしても目こぼししてもらえるが、逆説的にあれくらいの実力者でないと厳罰は確実だ。


 特に無能者が調子に乗ってやったオイタは、見せしめも兼ねての処罰になるので、現在、ロペス子爵のみならず、その家族も絶望的な立場にある。


 が、サムのように実力者ならばそれも逃れられるので、ティリエランとしてはメドリオーに口添えを乞うため、今回の反乱鎮圧は漫然と戦ってすませるわけにはいかない。


 先頭を進むティリエランに反徒らは矢の雨を降らせるが、はるか東に在る乗竜フリーズドライの能力を用い、大きな氷塊を生み出して盾代わりとする。


 何人かのアーク・ルーン兵と共に氷塊を押し、矢を防ぎながら前進していき、ティリエランとその部隊は弓矢を持つ反徒らの中に躍り込む。


 当然、フレオールらもそれに続き、アーシェアも弩の脅威がなくなるや、風上から反徒たちへと襲いかかる。無論、この間もザジールが背後から反乱軍を圧迫しているのは言うまでもない。


「退くな! 押し返せ!」


「ダメだ! 後退して体勢を整えろ!」


 いくつかの反乱軍の集合体であるがゆえ、頭目たちは相反する命令を発し、ますます自軍を混乱させてしまう。


 前後と側面の一つ、三方をふさがれた形の反乱軍は、ついにその士気が崩れて、残る一方へと無秩序に敗走を始める。


 ケペニッツ城市のある方向に。



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