ワイズ騒乱編7-3
「いやあ、ありがとうございます。こうなりましたら、不肖、このトイラック、姫の寛大なお心に応えられますよう、精一杯に努めさせていただきます」
不器用に愛想笑いを浮かべ、卑屈な態度で顔色をうかがってくる相手に、ウィルトニアはやや鼻白む。
敗者としては、勝者の当然の権利にとやかく言えないし、今更、売り払われた物をどうこうしたいとも思わない。戻ってきたら、それはそれでイヤでもあろう。
ゆえに「もう、どうでもいい」と答えたが、よほど後ろめたいのか、トイラックは頭を下げ続け、敗者よりも酷くへりくだっている。
勝者としと見下ろされても腹が立っただろうが、卑屈な態度を取られても、負けた方は情けなくなってくるというもの。
性格をわかっているフレオールも、やや呆れた風にトイラックを見ている。
が、二人の心中に反して、トイラックはもみ手をしながら、
「それでは、我が軍の弱点を教えましょう」
「はあ?」
亡国の王女はすっとんきょうな声を上げる。
激しく戸惑うウィルトニアに構わず、
「我が軍は約十万を物資の運搬に、もう十万をワイズ領内の公共工事に用いています。だから、陣地を守る兵は実質的に三十万となります」
「なっ!」
「それと、当初は十万の兵のみで、七竜連合と戦う予定でした。ゆえに、クラングナにある基地には、いくらか余裕をもたせていますが、十万人分の物資しかありません。つまり、五十万の兵が長期に軍事行動が取れる用意を現在、急ぎ整えているのです」
もちろん、トイラックが虚言を吐いている可能性はある。が、何十万という兵や物資の話だ。隠そうとして隠し通せる規模ではなく、調べればカンタンに裏が取れる。
ちなみに、クラングナはワイズの西にあった隣国で、十一年前にアーク・ルーンによって滅ぼされている。ここにしっかりとした基地を作っていたゆえ、去年、アーク・ルーン軍はワイズ王国を一気に滅ぼせるだけの軍事行動が取れたのだ。
「どういうつまりだ、キサマ?」
ウィルトニアが険しい声で問うのも当然だろう。
自軍の弱点をさらすなど、あまりにも非常識すぎる。まさか、ウィルトニアのパンツを売ったことを苦にしての発言ではあるまい。
それならば、七竜姫はありったけのパンツを持って、トイラックの元に赴くだろう。
「当然の不審です。では、その点を順を追って説明していきましょう」
「待て。その前にキサマの目的は何だ? ハッキリさせろ」
偽りは許さぬ。そう言わんばかりに、まっすぐに睨みつけて来るウィルトニアを、トイラックは真っ向から見返して、極めて真面目くさった口調で応じる。
「経費削減です」