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帝都編3

 四頭引きの大型な馬車とはいえ、七人も乗れば狭くはないが息苦しさを感じているのは、ティリエランとナターシャだけであろう。


 魔法帝国アーク・ルーンの帝都の北門をくぐり、大通りを進むフレオールが用意させた馬車は、飾り気はないが十人は乗れる大きなものであったので、物理的にスペースの余地はなくはなかった。


 ティリエランとナターシャが息苦しさというより、居心地の悪さを覚えるのは、同乗する知己の存在のためであった。


 クラウディアは相変わらず焦点のあっていない目をしており、座席の片隅で置き物のように身じろぎもせずに座っている。


 当然、この痛ましい姿にティリエランとナターシャは心配はしているが、クラウディアの姪や弟を殺してこのような状態に追い込むに手を貸した身としては、どのような言葉も偽善的なものとなると思い、声をかけられずにいる。


 そのクラウディアの隣のフォーリスは、黙考しているかと思えば、時折、ぶつぶつとつぶやいている。


 こちらもどう見ても大丈夫に思えない様子だが、その独り言の内容が「サムに反乱を起こさせる」とか「トイラックとスラックスを仲違いさせる」という物騒なものばかりなので、心配ではあるが巻き添えにならぬためにも声をかけられるものではなかった。


 車中でマトモなのはフレオールだけだが、この男に頼りすぎるとその両脇で肢体を密着させ、屈託のない笑顔を浮かべているシィルエールやミリアーナみたいになりかねず、不安一杯の心境でティリエランとナターシャは馬車に揺られ続けた。


 ちなみにイリアッシュは、別の馬車で一足先に皇宮に向かっている。


 史上空前の大帝国たるアーク・ルーンの帝都は、史上空前の巨大都市であり、その人口は百数十万、無戸籍の者を含めれば二百万にも達すると言われるほどである。


 その巨大都市の大通りは当たり前だが道幅がかなりあり、ほめられたことではないが、フレオールらの乗る大型馬車が路肩に止めても、通行の大きな妨げにならないほどだ。


「じゃあ、フードを被ってついて来てくれ」


 指示するとおりに、フードつきの外套を一人ずつ渡している。


 馬車から降りる際して、女性陣にフードつきの外套を着用させる理由は二つ。


 これから馬車では入れない路地に入っていくが、こちらは大通りと違って石だたみで舗装されていないので、土煙などで汚れ易く、せっかくのおめかしが台無しにならないよう、外套を着ておく必要がある。


 そして、フードを目深に被らせたのは、彼女たちほどの美人がぞろぞろと歩いていては、目立つことこの上なく、どんなトラブルが起こるかわからないので、顔を隠させたのだ。


 もちろん、顔を隠した者たちが連れ立って歩く様は怪しくはあるが、だからこそ人が近づいて来ることはなく、一同はフレオールに先導されて一軒の飯屋の前にたどり着き、ティリエランとナターシャは眉をしかめる。


 夕食にはまだ早い時刻なのもあるが、連れて来られた飯屋は明らかに場末の大衆食堂で、落ちぶれたりとはいえ、元王女の入る店ではない。


 元王女という身分に配慮して、自分の舘で出した食事も、そこからの道中で寄ったレストランもそれなりのレベルであったから、フレオールが何を意図して場末の飯屋に立ち寄ったのがわからなかったのは、店内に入るまでのこと。


 さして間隔がなく置かれたテーブルやイスのみならず、壁も天井も床も年季が入っており、全体的に古びた店内には、このような中途半端な時間帯にも関わらず、二十人以上の客の姿があったが、彼らはテーブルに着いておらずカウンターにあたりに密集していた。


 正確にはカウンターの前に立つ、褐色の肌をした二人の美しい女性を囲み、口々に何か言葉をかけていたのだが、フレオールらが入り口をくぐった途端、その視線がそちらへと向く。


 同時に、フレオールらも反射的に相手の視線に応じる形で見返したので、ティリエランとナターシャはその褐色の肌の女性ふたりの片方が、誰かに似ているように思えたが、


「……レイラッ!」


 もう一人の人間離れした美しさがドラゴニアンが人の形を取ったものなのに先に気づいたナターシャが、驚いてその名を口にする。


 さらに共に驚くティリエランが、もう一度、レイラの隣にいる美女をよく見詰め、


「……アーシェ先輩なのですか! なにゆえ、こんな所に!」


 ドラゴニアンの能力を用いている主の正体に気づいてその愛称を口にした。



ストック枯渇につき、当面、三日に一度の投稿ペースでいこうと思います。

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