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落竜編シャーウ12

 かつてフレオールはレイドと戦ったというのは、いささか正確性を欠くであろう。


 フレオールがレイドの双剣と激突したのは、ライディアン竜騎士学園の行事の中でのことである。


 ドラゴンとはいえ人間社会のルールをいくらか理解しているレイドは、その際はフレオールを殺さないように戦っており、フレオールもそんな『戦い』で多少なりとも双剣の魔竜と戦り合ったと考えるほどボケていない。


 ここは戦場であり、向かって来るレイドに手加減なり配慮なりを期待できるものではない。本気の双剣の魔竜と激突すれば、十合もしのげれば御の字、二十合は確実にもたないだろう。


 だが、曲がりなりにもレイドと戦ったフレオールは、その戦闘姿勢を知っているので、ウィルトニアへの攻め手を止め、大きく跳んでフォーリスの側に着地する。


 フォーリスと組んで双剣の魔竜と戦うためではない。二人がかりでも勝ってないのに、向こうにはウィルトニアもいるのだ。おそらく、フレオールとフォーリスのにわかコンビでは、ウィルトニアとレイドの戦闘時の連携に遠く及ばないだろう。


 そのウィルトニアとレイドの戦闘における洞察力の高さも理解しているからこそ、フレオールはフォーリスの元に向かったのではなく、その足元にそれがあったからであり、フレオールの思惑のとおりにウィルトニアもレイドも、その場で身構えて何事が生じても対処できるように姿勢を整える。


 警戒する一人と一頭の鋭い視線を感じながら、


「……な、何をするつもりですの!」


「開け放たれよ!」


 足元の皮袋を手に持った途端に発した、もう一人の慌てた声を無視し、苦肉の策を解き放つ。


 フレオールの手にした皮袋はマジック・アイテムであり、その中に詰まっていたコノート貴族から奪った大量の金品は、合言葉ひとつで黒い鱗の上に小山を成す。


「何だというのだ?」


「時間稼ぎだ」


 小首を傾げる小娘とは場数も生きた年数も違う変わり種のドラゴンは、すぐにフレオールの切った手札にしてやられたことに気づく。


 ウィルトニアもレイドも、優勢だからといって勇み足となる戦士ではない。いかなる時も冷静な戦い方を堅持するからこそ、フレオールが妙な動きを警戒して見に徹してしまい、まんまと一杯、食わされたのである。


 どれだけ戦士として優れ、精神力や洞察力を培おうが、魔法についての知識が無ければ、無害なものを誤認して攻め手を止めるという失策をおかしてしまう。


 否、フレオールのトリックに引っかかってしまったというのが正確であり、そのトリックのタネはまだ尽きていない。


「シィル! 風を!」


「キャッ」


「ガアアアッ!」


 フォーリスの頭をつかんで押し倒して身を伏せたフレオールの合図に応じ、シィルエールが風を、いや、竜巻を発生させると、ウィルトニアもレイドも黒い鱗の上で身を伏せる。


 足場さえあれば、レイドならば風や竜巻を斬ることができるが、それと同時に竜巻に巻き上げられ、宙を舞う金品の数々まで斬るには、二本の刃では足りない。


 激しい竜巻だが、人ではないレイドの筋力ならば、竜騎士であるウィルトニアやフォーリスならば、黒い鱗の上で踏ん張って立っていられなくもない。だが、その場合、コノート貴族から強奪した品々がその身を打つであろう。


 それゆえ、三人と一頭は身を伏せて竜巻をやり過ごすと、ウィルトニアとレイドはすぐに立ち上がった。


 双剣を構え直したレイドは一直線にフレオールとフォーリスへと駆け、大剣を捨てたウィルトニアは一枚、足元の黒い鱗を引きちぎり、シィルエールへと投げ放って牽制する。


 フォーリスの放つドラゴニック・オーラを斬り裂きながら接近した双剣の魔竜に、フレオールは真紅の魔槍を繰り出すが、本気のレイドはそれに合わせて剣を振るい、魔槍の柄を強打して、得意の連続突きを封じる。


 フレオールとはすでに手合わせをしており、その槍筋は既知のものであり、実力差がある以上、レイドにとってその攻略は難しくない。


 十合どころか、その半分にも満たず斬られると悟ったフレオールは、真紅の魔槍を捨てフォーリスのえり首をつかみ、大きく後ろに跳躍する。


 黒い鱗のない宙へと。


「……キャアアア」


「シィル!」


 悲鳴を上げるフォーリスと共に落下するフレオールの呼びかけに応じ、シィルエールはスカイブローを駆って二人のキャッチに向かう。


「ガガッ」


 それを阻止せんとするウィルトニアの豪速球が、スカイブローの空色の鱗を突き破るが、ドラゴンの巨体に黒い鱗の一枚が刺さった程度では止められるものではない。


 無論、ウィルトニアはまた一枚、黒い鱗を引きちぎろうとするより早く、背中に主がいなくなったダーク・ドラゴンが主の敵を振り落としにかかったからだ。


 慌ててウィルトニアは振り落とされぬようしがみつくようなマネはせず、落とされないように気をつけながら移動してから、ドラゴンたちをがっしりとつかむ。


 そして、ブラックシューターをがっしりとつかんだウィルトニアにがっしりとつかまれ、激しく躍動する黒い鱗の上で身体が固定しているレイドは、


「ガアアアッ!」


 ダーク・ドラゴンの発生させた黒い毒素に包まれながら双剣を振り下ろす。


 フレイム・ドラゴンやドラゴニアンの羽でエア・ドラゴンの速度にかなうべくもないので、追っても無駄なマネはせず、確実にダーク・ドラゴンを仕留めようとした瞬間、ブラックシューターは背中の上の一人と一頭を毒で包んだのだ。


 が、ダーク・ドラゴンの発する猛毒もドラゴンには通じず、その耐性を用いることができる竜騎士も、アーク・ルーン製の特殊な魔法毒以外で倒れることがないが、ブラックシューターの方もレイドの双剣で倒されることもなかった。


 毒そのものは効かなくとも、毒を発生させた際の黒いモヤが視界を妨げる形となり、精密さを欠いたレイドの斬撃は黒い鱗に弾かれたが、それで何とかなるほど双剣の魔竜の技倆は低くない。視覚に頼らずに斬れば、否、打てばいいだけだ。


 実際、精神を研ぎ澄ませたレイドは、以前にベルギアットにやったように、ブラックシューターの背中を双剣で打ち、その衝撃を内部に伝えて意識を奪う。


 当然、気絶させられたダーク・ドラゴンの羽ばたきは止まり、落下が始まる。


 ドラゴンであっても助からない高さからの落下が。



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