落竜編シャーウ11
主が敵の一人との同じ土俵、否、鱗の上に立った途端、双剣の魔竜はその身と羽をひるがえし、主と同じ土俵へと向かって飛翔する。
「相変わらず抜け目がない」
ウィルトニアがフォーリスとの接近戦に持ち込むのに成功するや、そちらに向かって戦力合流を計るレイドに、フレオールは苦々しくそうつぶやく。
上空で足場がなく本来の実力を発揮できないレイドだが、黒い鱗の上に立てばそれもなくなる。
無論、それを阻むのはカンタンで、シィルエールが風を放てばいいだけなのだが、今、より切実に戦力合流を計らねばならないのはフレオールらの方だ。
フォーリスではウィルトニアに勝てない。ならば、フレオールなりが助けに向かわねばならないが、そうすればレイドの動きを阻止できない。
仮に、フレオールのみがフォーリスの元に向かい、シィルエールが突風を放って双剣の魔竜の動きを封じようとしても、そのような対処ではレイドがドラゴンの姿に戻ればそれまでだ。
どれだけの強風、シィルエールの力ではドラゴンの巨体をどうこうできるものではない。フレオールの魔槍の穂先が自分に向いていなければ、レイドも本来の姿で動くことができるようになる。
もちろん、シィルエールが可能な限りレイドを足止めし、先に合流したフレオールとフォーリスが二人がかりでウィルトニアを倒そうが、この状況になった時点で勝敗は決している。
ウィルトニアがいなくなろうが、フレオール、フォーリス、シィルエールの三人がかりでもレイドにかなわぬのだから。
とはいえ、このままではフォーリスがくびり殺されかねないので、フレオールとしても動かぬわけにもいかず、何よりレイドへの唯一の対抗手段、味方の来援まで時を稼ぐより他ない。
シィルエールはスカイブローを駆ってレイドを追って追い越し、その前に回り込み、
「ハアアアッ!」
風を放ってレイドを牽制している間に、フレオールは跳躍してブラックシューターの背中に降り立ち、まっすぐウィルトニアへと向かう。
抜き放った大剣を振るい、守りに徹するフォーリスのフランベルジュを叩き折ったウィルトニアだが、フレオールが駆け寄って来るのを知ると、一端、下がって、フレオールとも相対できる位置に立つ。
「ハッ! ハッ! ハッ!」
いかに巨体とはいえ、飛んでいるドラゴンの背中の上という足場の悪さで、真紅の魔槍の三連突きを大剣で防ぎつつ、
「ハアアアッ!」
フォーリスの放ったドラゴニック・オーラも防いでのけるだけではない。
フレオールの魔槍とフォーリスのドラゴニック・オーラを防ぎいでかわすウィルトニアは、
「ハアアアッ!」
ドラゴニック・オーラのみならず、その直後に投じた短剣も回避する。
フォーリスとしては予想外の攻撃を投じたつもりだが、それすら読み切ったウィルトニアだが余裕を以て
回避したわけではなく、その体勢は少なからず崩れる。
「ハッ! ハッ! ハッ!」
この機にフレオールは激しくさらに攻め立て、ウィルトニアの体勢はさらに無理のあるものとなっていくが、必死に守るウィルトニアの顔にはまだ落ち着きがあり、必死に攻めるフレオールの形相には焦りの色がにじんでいた。
「ガアアアッ!」
ドラゴンの姿でシィルエールのブロックを突破したレイドが、人の姿となって黒い鱗の上に降り立ったからだ。
その二つ名たる刃を抜き放ったドラゴンは、主の元に、正確には主に刃を向ける敵へと駆け出した。




