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落竜編シャーウ8

「まさか、コノートに亡命しているとはな」


 それが現状に対するフレオールの率直な感想であった。


 先のマヴァル軍との戦いで亡命したばかりのガーランドらが参戦していたにも関わらず、ウィルトニアの姿がなかったことから、マヴァル帝国にいないであろうことは予想できていたが、コノート王国に亡命していたのは完全に想定外だ。


 七竜連合の中で最もコノート王国に近いロペス王国ですら、両国に正式な国交はないのだ。最も離れているワイズ王国となれば、コノートと何かしらの縁があるとは思えない。


 その点を検証することに今は意味はない。今、考えるべきはウィルトニアらからどう逃げるか、だ。


 自分たちを追うフレイム・ドラゴンは共に亡命したモニカが駆っているのだろうが、彼女とウィルトニアだけなら撃退するのは容易だ。


 ウィルトニアはフレオールとほぼ互角、フォーリスよりいくらか強くはあるが、モニカは実力的に大きく劣る。フレオールがウィルトニアと戦い、その間にフォーリスがモニカを倒すという方策は、フレイム・ドラゴンの背にあるもう一頭、双剣の魔竜レイドがネックとなって用いられるものではない。


 レイドの強さはウィルトニアすら大きく上回るものだ。フレオールとフォーリスの二人がかりでも勝ち目はなく、追っ手に双剣の魔竜がいる時点で、フレオールらには逃げの一手しかなかった。


 竜騎士としての技量はモニカよりフォーリスの方がずっと上で、ダーク・ドラゴンとフレイム・ドラゴンでは速力に大した差はない。この点を踏まえれば、モニカに追いつかれる心配はないどころか、わずかずつだか両者の技量の差で距離は開くことはあっても縮むことはなかった。


 ただし、乗竜そのものの速力に差はないので、必死に食い下がってくるモニカを、いかにフォーリスでも振り切ることはできないので、ブラックシューターを巧妙に西へと転進する。


 西へ、モルガール領に至れば、集結中のナターシャらと合流できる。いかにレイドが強くとも、何十騎もの竜騎士で押し包めば倒せるというか、数で対抗するより双剣の魔竜をどうにかする術はない。


 フォーリスの考えも判断も間違いではなく、大したロスもなく西へとうまく転進し、その後も精密な軌道修正で、ナターシャらがいる集結地にまっすぐ向かう進路を取った点も見事ではあったのだ。


 竜騎士として一流の腕を持ち、知恵だけではなく方向感覚にも優れるフォーリスは、巧みに軌道修正を行っていき、竜騎士たちの集結地点、味方のいる場所にまっすぐと向かう進路を取った。そうすれば早く味方と合流できるからだが、その計算の元に飛び続けた結果、


「射て!」


 味方よりも先にコノート軍と接触してしまい、何百の弩からブラックシューターへと矢が放たれる。


 慌ててフォーリスは乗竜を上昇させたが、数十本という矢がその黒い巨体に当たり、その半数が黒い鱗を貫いて突き刺さる。


 ドラゴン族の硬い鱗ととっさの急上昇で、ブラックシューターに命中した矢の内、深く刺さったのは数本だけであったが、言うまでもなくより致命的なのは何本かの矢が黒い羽を傷つけて穴を空けたことと、この回避行動の間にモニカが一気に距離を詰めた点だ。


 フォーリスを追うようにモニカは乗竜を上昇させ、一方、追われる側は追う側を振り切るのが不可能になる。


 羽や肉体の傷ついたブラックシューターの速力は落ちている上、再び引き離しにかかればまた地上から矢を射たれる。


 皮肉にも、モニカが接近してきたため、上空への第二射をコノート兵らは放てずにいるのだ。


 無論、それはコノート王国がウィルトニアらの味方である証左だが、いよいよ追いつかれんとするフォーリスらにはそうした考察をしている余裕はない。


 逃げられぬと悟ったフォーリスは、傷ついた乗竜を空中で停止させ、下方から迫り来るモニカ、いや、ウィルトニアを迎え撃たんと体勢を整えるより先にレイドが動いた。


 双剣の魔竜はあろうことか、上昇するフレイム・ドラゴンの背中から首へと駆け上がり、頭部に到るや凄まじい跳躍力を見せ、下からダーク・ドラゴンを抜き放った双剣で斬りかかっていこうとしたが、


「槍よ! 刺し貫け!」


 横手からフレオールが投じた真紅の魔槍がそれを阻んだ。

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