落竜編20
フレオールが想定したよりマヴァル兵らによって、イリアッシュらとの合流が大いに遅れることになった。
レヴァンが足止めのために放った火がおさまるのを待ち、フレオールらを追って城塞へと向かったイリアッシュらの途上に少なくないマヴァル兵がいたからだ。
十五騎の竜騎士による追撃を受けている間に、多くのマヴァル兵が疲労で倒れたが、十五騎しかいないので、フレオールは倒れた者を無視して追撃を続けた。
こうして路上に取り残されたマヴァル兵らは、乱れた呼吸が整って助かったことに安堵の息をついたのも束の間、彼らはすぐに途方に暮れることになる。
命令のとおりに城塞に再び向かったが、そこには自分たちを跨いで駆け抜いた竜騎士たちが取りついて、命令のとおりに城塞に入ろうにも入れる状態ではなかった。
とりあえず、街道を少し引き返して、どうすればいいのかと思案にふけり、城塞の方ばかりを気にしていたため、マヴァル兵はイリアッシュらの接近に気づくのが遅れたのが運の尽きであった。
この遭遇に驚いたのは双方、同じであったが、
「マヴァル兵だ、皆殺しにしろ!」
その一声をきっかけに、アーク・ルーン側が動き出す。
四騎の竜騎士を先頭に二千五百の兵が突撃すると、隊列も気構えも整っていないマヴァル兵の群れは、あっさりと一蹴されただけですまなかった。
「一人も逃がすなっ!」
その一声に二千五百人が嬉々として、逃げ散って行くマヴァル兵らを追い回し、殺せるだけ殺していく。
さすがに作戦行動中なので、マヴァル兵を時間をかけてなぶり殺しするようなマネは自重して、マヴァル兵の命を手数をかけずに奪っていく。
こうして遅れた予定がさらに遅れたものの、アーク・ルーン軍は合流を果たし、時間もないので即座に城塞の制圧に入った。
城壁を突破し、防御兵器の破壊も終え、城塞の本丸に斬り込む準備はすでに整っている。
無論、マヴァル兵も敵の突入を待っているばかりではなく、竜騎士たちを追い払おうとしたが、城壁の内側に踏み込まれた状態で、ろくな応戦ができるものではない。
出入口から外に出ようとすればそこに竜騎士の攻撃を受け、また屋上や窓から弓矢を射とうとすれば、やはり竜騎士の攻撃を受けることになる。
竜騎士らに肉薄された段階で、身を屋外にさらせばたちまち攻撃を食らうマヴァル兵らには、屋内でアーク・ルーン側の突入を待ち構えるより他の選択肢はなかった。
城塞の内部で待ち構える七千弱のマヴァル兵に対して、アーク・ルーン側は一名の魔法戦士と十九名の竜騎士を先頭に踏み込んでいく。
フレオールは言うまでもなく、乗竜から降りても竜騎士らは充分に強く、
「槍よ! 刺し碎け!」
「ハアアアッ!」
魔法戦士が投じた真紅の魔槍が、イリアッシュらが放ったドラゴニック・オーラなどが、廊下に密集したマヴァル兵を次々と打ち倒していく。
城塞内の廊下は、広い所で十人が並ぶことができるが、両軍を合わせて一万近い兵が立ち回りができるものではなく、双方は自然と密集してのぶつかり合いとなり、固まっているマヴァル兵は竜騎士たちの攻撃のいい的でしかなかった。
「怯むな! 数はこちらの方が多いのだ! いかに竜騎士が強くとも、数で押せば退けられる!」
双方の数は三倍近く違う。竜騎士らはその剛勇で次々とマヴァル兵を倒していくが、マヴァル側は四千五百の数の差を活かし、新手を次々と繰り出して対抗する。
フレオール、イリアッシュ、ティリエラン、シィルエールがいかに強くとも、数百の兵が押し寄せてくれば、数の力にどうしても押されてしまい、マヴァル兵は竜騎士たちが、そしてアーク・ルーンたちが城塞の奥へと侵入を阻む。
フレオールと竜騎士たちが討ったマヴァル兵は三百を越えたが、守備側は味方の屍を踏み越え、下がろうとはしない。
「撤退だ! ここは退け!」
むしろ、押し切れぬと判断したアーク・ルーン側が下がり出す。
これで先頭に立っていたフレオールと竜騎士らがしんがりとなり、二千五百の兵が逃げる時を稼ぎ、それから自分たちも後退を始める。
三百人以上の味方を殺した憎い二十名が下がったのだ。マヴァル兵たちはそれを追い、中庭へと飛び出していく。
「射よ!」
中庭にいるはずのドラゴンたちがいないことを不思議に思う間も与えず、城壁の上に展開を終えた二千五百の兵が、飛び出してきたマヴァル兵に矢の雨を降らす。
矢を浴びて倒れていく味方の姿に、マヴァル兵らは驚いて屋内へと引き返そうとするが、出入口は味方で埋まってにわかに戻ることができない。
外に出ようと殺到するマヴァル兵の内、屋外の様子のわからぬ者は前進を続けているのだ。
戻ろうとする兵と進もうとする兵がぶつかり合い、身動きの取れぬマヴァル兵を次々とアーク・ルーン側は射倒していくだけではない。
「ガアアアッ!!!!!!」
アース・ドラゴンを駆る六人の竜騎士が雄叫びを上げ、乗竜の能力を用い、城塞の一部を崩す。
マヴァル兵らが押し合いへし合いをする廊下の天井を。
これで城塞の出入口の一つがガレキと死体で埋まったが、ならば別の出入口から再突入すればいいだけのこと。
そして、再びフレオールと竜騎士らは二千五百の兵の先頭に立って突入した上、
「ガアアアッ!」
さらに城壁の外に移動させた十九頭のドラゴンが咆哮を発する。
実のところ、ドラゴンらはただ吠えているだけだが、それでもアーク・ルーンにしてやられたところに再突入を受けたマヴァル兵らの士気をくじく効果はあり、今度は味方の屍を越えるどころか、フレオールらと激突して数十人と倒されると、マヴァル兵らは城塞を放棄して逃げ出し、フレオールらも慌てて退去を始める。
城塞を放棄する際に、マヴァル軍が火を放ったからだ。
ティリエランらの駆る数頭のアイス・ドラゴンを以てしても消化できぬほどの火を。




