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落竜編19

 並行追撃。


 軍事における戦法の一つで、敗走する敵を並ぶように追い、敵が城や陣地に逃げ込む際に一緒に雪崩れ込んで、一挙に占拠を計る方法である。


 強行突破を果たしたマヴァル兵らを追うフレオールたちは、その背中に攻撃を加えつつ、適度に追撃速度を調整して、マヴァル兵と並行するように城塞に向かっていた。


 竜騎士に背後から攻撃を受けて倒れた者もいることにはいるが、それよりも体力が尽きて道端に倒れた者の方がずっと多く、さらに多かったのは城塞ではなく明後日の方向へと逃げ散って行く者であった。


「倒れた奴、バラバラに逃げる奴には構うな」


 フレオールの指示の元、うまく速度コントロールを行い、十五騎の竜騎士は約四千のマヴァル兵を城塞に追い込むのに成功した。


 城塞の方でも逃げて来る味方と、その後ろにぴったりと続く竜騎士たちに気づき、対応に迷ったが、


「城門を開け、味方を収容せよ! その間、竜騎士たちを近づけるな!」


 城塞の守将の命令は、前半こそただちに実行されたが、後半に守備兵たちは強い戸惑いを見せた。


 城塞には弓矢ばかりではなく、対竜騎士用の防御兵器まである。だが、それらを放てば、城門に逃げ込もうとする味方に当てかねず、竜騎士たちはあっさりと城壁に取りつくことができた。


 四頭の軍馬が並んで通れる城門も竜騎士には狭すぎるので、


「まず、防御兵器を壊せ! 次に城門を凍らせよ! そして、城壁を何ヵ所か崩せ!」


 フレオールの指示が飛び、城壁に備えつけられている防御兵器が次々と破壊され、同時に数頭のアイス・ドラゴンが城門を凍りつかせて閉じられなくする。それから竜騎士たちは三ヵ所で城壁に体当たりを繰り返し出す。


 もっとも、ギガント・ドラゴンを駆る竜騎士らは、城壁を飛び越えて中庭に降り立ち、しかし暴れ回ることはせず、マヴァル兵を威圧するに留める。


「派手に破壊すると、後でこちらが苦労することになる。今は敵を屋内に押し込めるだけに留めよ」


 アーク・ルーンの目的は城塞の破壊ではなく占拠なのだ。あまり壊しすぎると、占拠した後、すぐに城塞を使うことができない。


 城塞の守備兵三千と逃げ込んだ兵四千。並行追撃で城塞に取りついた竜騎士らによって、百以上のマヴァル兵が死んだが、七千弱が城塞の建物に立てこもっている。


 その七千の内、四千は走り続けて疲れ切っており、三千の守備兵も中庭に竜騎士が鎮座する事態に狼狽しており、本来なら今すぐにも突入すべきなのだが、フレオールを含め十六人では、いくらなんでも城塞を占拠するには少なすぎる。


 何より、ドラゴニアンでない限り、ドラゴンは屋内に入ることはできない。


 城塞を制圧するには、数的に二千五百の味方が来るまで待たねばならないが、それはマヴァル側に時を与えることを意味する。


 疲労しているマヴァル兵を回復させることになり、それ以上に心理的に立ち直ってしまう点の方が痛いのだが、物理的に制圧が不可能であるのだから、このデメリットは甘受するしかない。


 並行追撃に移る前に、レヴァンが陣地に火を放ったのも、その火勢が激しかったのも、フレオールは視認している。鎮火するまで動けぬことを考慮すれば、イリアッシュらとの合流に数時間の遅れが生じるだろう。


 だが、それでも間道へと逃げたであろうレヴァンが城塞に戻る前には、イリアッシュらとの合流して制圧はできるはずだ。


 フレオールの計算どおりならば。


 しかし、レヴァンが逃げる際に陣地に火を放ったのは予定外のことであり、修正した計算が破綻することもあり得るのだ。


 歴戦の老将の一手によって。



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