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落竜編フリカ3

「このままではフリカの地は、あのゾランガの好き勝手にされてしまうぞっ!」


 そう苦々しく吐き捨て、酒杯をあおったのが、フリカの元貴族であったならば、別に珍しい光景ではなかったであろう。


 フリカに限らないが、魔法帝国アーク・ルーンに征服された地の貴族は、財産や領地だけではなく、職も失うケースが多い。


 新領土で新たな統治体制を築くにあたり、アーク・ルーンの基本方針は、現場経験の豊富な平民や下級貴族の官吏らを昇格させる、というものだ。


 イライセンのような例外を除き、家柄が良いという理由で高い地位にふんぞり返っている面々の下で、家柄が低いという理由で出世できずいた面々は、当然、アーク・ルーンに感謝して、その統治体制の確立に積極的に尽力するようになる。


 ゾランガやマフキンなどがその良い例であろうし、ワイズの現在の代国官も平民出身の官吏だ。


 無論、その一方、高い地位から逐われた貴族らは、アーク・ルーンを憎まずにおられないが、彼らの不平不満など取るに足らない。数においては、平民や下級貴族の方がずっと多く、大多数の支持が支配体制は盤石となり、少数の不満でくつがえることはないのだ。


 ただし、平民の全てがアーク・ルーンの統治を支持しているわけではない。アーク・ルーンとの戦で死んだ兵の遺族など、憎む気持ちをどうしても止められぬであろうし、酒場で酒杯をあおる、その三人の平民出身の男たちも、アーク・ルーンを、正確にはゾランガへの恨み辛みを募らせていた。


 彼ら三人は、フリカの旧王都にいくつかある商会の一つで働いていたが、先日、その商会の主とその家族は、昨年の買い占めの罪を問われ、ゾランガの指示によって捕らわれてしまった。


 主を失ったことにより、その商会は潰れた、ということはなく、番頭が業務を引き継いで、それまで通りに経営しているが、主がいなくなった影響が皆無なわけではない。


 それまで主の直属の部下として商会で幅を効かせていた三名だからこそ、主がいなくなった途端、番頭の部下たちに自分たちの立場や役割を奪われてしまった。


 商会の主要派閥が変わり、出世競争に敗れた三人は、その原因を作ったゾランガを恨み、絶えず不平をもらし、酒杯をあおりにあおった。


「聞けば、ヤツは王族の方々に酷い仕打ちをしているそうだ。まったく、元廷臣のクセに、節操のないヤツだ」


「そればかりか、法を好き勝手にいじり回し、我らの主だけではなく、何人、いや、何十人もを捕らえ、牢で毎日のようにいたぶっておるとか」


「いや、ゾランガの犠牲者は数十人ですまぬそうだぞ。何でも、ヤツは過去に遺恨のある者を、この機にことごとく仕返ししているらしい」


 性格の悪い、あるいはソリの合わない上司や同僚というのはいるものだが、ゾランガはフリカの官吏時代に意地悪された面々に対して、今の地位を濫用して報復を行っている。


 さすがに投獄して凄惨な仕打ちを与えるまではしてないが、この機にどんな小さな怨恨も晴らし、当人が死んでいたらその子や孫に恨みをぶつける徹底ぶりだ。


「それならば、ゾランガを恨んでいる者は少なくあるまい。そいつらを結集すれば、ゾランガを倒すのも可能なのではないか?」


 声をひそめ、酒臭い息と共に、暗い感情を吐き出す。


 この提案に他の二人はぎょっとした顔になり、


「そんなにうまくいくものか。そもそも、どうやって不平分子をここに呼び集めるのだ?」


「仮にゾランガをうまく排除できたとしても、アーク・ルーンが残ったままでは、すぐに返り討ちにあうだけだ。アーク・ルーンの強さは忘れたのか。実際に何人もの貴族様や騎士様が立ち上がったが、すぐに討たれたのだぞ」


 タスタルと同様、不平不満を爆発させ、何人かがアーク・ルーン打倒を叫んで決起したが、それらはすぐに鎮圧された。


 いかに大きな声で大言壮語を張り上げようが、それに民衆が同調も協力もしなければ、争乱にすら成りようがない。


 それどころか、フリカ王国末期の苦しい生活と、アーク・ルーンによる苦しさが少しずつ改善されていく生活を体験している民は、反乱ではなくその鎮圧に協力するありさまだ。


 ゾランガの常軌を逸した復讐心の対象となった者が、その理不尽な仕打ちをどれだけ恨もうとも、常軌を逸した復讐心の対象となっていない者の方が圧倒的に多いのである。


 そして、その大多数の民は、ゾランガの主導する復興政策に感謝しており、フリカにおけるアーク・ルーンの統治体制は少数の不平不満でくつがえるものではなかった。


 三人はさらに酒杯あおり、ゾランガをさらに激しく非難するが、酒で気が大きくなる反面、思考力が酒で鈍っているせいか、その発言は過激だがとりとめのないものへとなっていく。


 結局、三人は酒場の閉店間際までゾランガ打倒や祖国解放を叫んでいたが、ただそれだけで、ちゃんと代金を置き、千鳥足ながら自力で帰宅していった。


 酒場の店主は儲けさせてくれたが、色々と危ういことを言っていた三人の酔客を見送ると、


「……一応、役人に報せておくか」


 そうつぶやき、従業員と共に店の片づけを始めた。



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