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滅竜編168-5

「我らバディンの竜騎士の力、とくと見せてやろうぞっ!」


「うおおおっ!!!!」


 その気勢に応じて、雄叫びを上げるバディンの竜騎士はわずか四騎のみ。


 逃走したガーランドを除き、バディン王国に残された、たった五騎の竜騎士は誰もが深く傷つき、満身創痍の状態にある。


 だが、何よりも彼ら五騎は絶体絶命の状況にあった。


 五騎のバディン竜騎士の前にいる竜騎士は、同じバディンの竜騎士だが四体の悪魔と合成され、邪悪な力を闇雲に振るう怪物と化している。


 五騎の竜騎士の背後にいる竜騎士たちは、全てアーク・ルーンに降って敵となっている。


 バディンの王都ベッペルでの戦いも大詰めを迎えてていた。


 三十万近い民が王都の外に逃げ終えるだけの時間、王都の半ば近くがガレキの山と化すほどの激しい戦いの末、狂ったドラゴンは掃討され、狂わされた一体のキメラを中心に、バディンの竜騎士五騎と、アーク・ルーンに従う約五十騎の竜騎士、そして魔法戦士一人に出演者が絞られた。


 キメラ一体と傷ついた竜騎士五騎だけならば、約五十騎の竜騎士が総がかりで当たれば、討ち果たすことも可能であるが、犠牲が出ることも避けられない。


 その犠牲を少なくする算段として、ティリエランはバディンの竜騎士たちに、


「アーク・ルーンに降った以上、私たちがあなた方と敵であることを変えようがありません。ゆえに、敵である我々があなた方にこのようなお願いをできないのは重々に承知で、あえてお願いします。どうか、あの怪物とのみ全力で戦ってください。何も報いることはできませんが、あなた方が敗れた後、私たちが有利に戦うために、何卒、お願いします」


 ティリエランの身勝手な頼みに、バディンの竜騎士はしばし迷った末ではあるが、どう己の心に整理をつけたか、五騎が敢然と怪物に突進していった。


 手当たり次第に暴れる、悪魔との合成で怪物と化したキメラは、今までも何騎かの竜騎士と戦っているが、その闇に染まった巨体に傷ひとつないどころか、攻撃を仕掛けている五騎の竜騎士の武器や、乗竜の爪牙の方が腐蝕している。


「ありゃあ、全身が障気で覆われているだけじゃなく、体内にも巡っているな。正気を失うのも当然どころか、遠からず内側から腐り出すぞ」


「けど、あれだけ障気あるなら、竜騎士の力でも、カンタンに防がれる。倒すの、難しい」


 バディンの竜騎士たちの勇戦を最も見易い場所で観戦するのは、当然、魔術の知識のあるフレオールとシィルエールであるのは言うまでもない。


 実際に博識なティリエランでも、魔術の基礎知識もないので、いかなる力で竜騎士の攻撃を防ぎ、武器や爪牙を腐らせるのかなど、キメラの能力を見抜くことも理解することもできない。



 敗者たる竜騎士と違って、フレオールはこの戦いに自主参戦しているのだが、強制されていないだけに積極的に戦い、狂ったドラゴンを何頭か仕留めている。


 惜しむらくは、竜騎士と違い、フレオールは長々と戦えばスタミナ切れを起こす点であろう。ティリエランらとは比べ物にならないほど汗をかいており、水をがぶがぶ飲みながら、戦いに視線と意識を集中させている。


 が、インターバルを取って体力を充分に回復しているのか、


「腐蝕の進度がわずかだが異なっている。なるほど、ドラゴニック・オーラがいくらか中和しているから、その量でこうした違いが出るのか」


 疲労を感じさせない洞察力を示す。


「では、ドラゴニック・オーラの量が多ければ、完全に障気を防げるということですわね」


「逆に、かなり多い者でないと、障気に人もドラゴンもやられるってことだね」


 フレオールの見解を受け、フォーリスとミリアーナが正反対の意見を述べるが、どちらも指摘していることは正しくある。


「あの怪物が無理をしているならば、持久戦に持っていくのも一つの手でしょう。数の優位を活かし、こちらは代わる代わる戦い、怪物の自滅を誘うべきです」


 ナターシャが消耗戦を提案した直後、戦闘に大きな変化が訪れる。


 障気に守られた肉体に何とか傷を与えようと、腐蝕した得物にありったけのドラゴニック・オーラを注ぎ込んで、一心不乱に振るっていたバディンの竜騎士らか、一挙に四騎も撃墜されたのだ。


 合成された四体の悪魔の口から、音にならない呪音が発すると、バディンの竜騎士らに何本もの暗黒の槍が突き刺さり、すでに傷ついていた人もドラゴンも耐えられず、撃ち落とされてしまったのだろう。


 これで一騎のみとなったバディンの竜騎士は、キメラの暗黒槍と障気を一身に向けられ、守りに徹して防ごうとしたが、全てを受け止めることなどできず、小さくない傷を負っていく。


 遠からず最後のバディンの竜騎士が倒されようとする中、


「守りに徹すれば、ある程度は防げるか」


 全てとはいかずとも、闇の力の一部を防いでいる点に着目する。


 まだ決定打を見出だすに至っていないので、まだまだ敵の情報に不足を感じるものの、バディン最後の竜騎士にこれ以上の奮闘や粘りは期待できそうにないので、


「もうすぐ出番が回りそうだから、手短に提案する。あの怪物に接近戦を挑むのはオレとお姫様らだけで、他の連中は遠距離攻撃のみとしてくれ」


 出番が直前まで迫っているのを感じ、得物を構え出したティリエランらに、耐えに耐えていた五騎目が耐え切れなくなった数瞬前、フレオールは手持ちの情報で考案した戦法を負け犬らに告げた。

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