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滅竜編158-1

「良いか! 今こそ祖国の興廃の時ぞ! 我らの数は少なくとも、我らと同じ志を持つ者が、続々と王都に向かっている! 皆の力を束ねれば、侵略者たちを撃退できるのだ! 正義は必ず勝つところを見せてやろうぞ!」


「うお、おぅ」


 三十前のまだ若いバディン騎士が馬上で声を張り上げるが、それに応じる兵士たちの声はおざまりなものであった。


 イサイトの野での大敗はバディン国内に広まりつつあり、バディン王国は更なる動揺に見舞われていた。


 大敗して半減以下の戦力となったバディン・ゼラント・ワイズ連合軍は、もはや野戦を挑める状態ではなく、南北からの挟撃を承知で、王都に立てこもる以外の選択肢がないありさまだ。


 当然、王都に立てこもるということは、それ以外の地域を放棄するということを意味する。地方のバディン貴族の中には、王都に慌てて逃げ込む者もいれば、このバディン騎士のように兵をかき集め、祖国のために最後まで戦おうとする者もいる。


 小さな村を治めるそのバディン騎士は、従卒一人と兵士四人、さらに粗末な武器を持たせた村の男十人ばかりを率いているが、率いられている者たちの表情は一様に暗い。


 兵士や村人らからすれば、遠く王都に行っている場合ではないのだ。


 大寒波の影響で、家の蓄えも食べ物も底を尽き、飢えた家族を食べさせていくために、例年より働かねばならず、またやるべきことはいくらでもあるのである。


 祖国を守るために王都に行くのはいいが、それで給金も出なければ、王都までの食料も村から集められたものだ。


 命がけのタダ働きを命じられた上、飢えてひもじい思いをしている妻子を放置せねばならないのだ。いかに領主様がお国のためと呼号しようが、ひたすら家族と故郷のことが気にかかる兵士や村人らにとっては、やる気が湧いてくるどころか、殺意しか湧いてこなかった。


 これまでなら、どれだけ理不尽な仕打ちを受けようが、民には耐えるしか選択肢はなかった。領主や国に逆らえば、処断されるだけだからだ。


 しかし、彼らも今、自分たちの祖国がどうなっているかを、それとなく耳にしている。バディンという国がなくなれば、国に逆らっても処断されることはない。むしろ、バディンという国に従ったままでは、アーク・ルーン軍に、新たな支配者に処断されることになりかねないのである。


 滅びる国の命令に従わぬのが利口というもの。ならば、従わぬ方が利口な命令を下す領主をどうすれば良いか。


 軍馬に跨がるバディン騎士の背後で、従卒と兵士と村人らは秘かに顔を見合わせ、


「あのう、領主様……」


「何だ……うぐっ」


 一人が気を引き、別の一人に背中から刺され、別の何人かに馬上から引きずり下ろされる。


 一人が軍馬の手綱を握って逃がさないようにし、その一人以外の全員が、


「キ、キサマたち、何をする……」


 馬上から落としたバディン騎士の体に手する武器を叩き込み、殺す。


 そして、血まみれにした死体から金目の物を残らずはぎ取り、主を殺された軍馬を引いて、十五人の男は来た道を引き返す。


 自分たちの妻子が待つ村に向かって。


 自分たちが殺した男の妻子がいる村に向かって。


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