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プロローグ8

「フリカでの内戦、おさまったそうにございます」


「おお、そうか」


 洞察力に優れるゾランガが、報告に来た部下のどことなく及び腰な点に気づかぬほど、その復讐の念は強かった。


 何しろ、魔法帝国アーク・ルーンの第十軍団に身を置き、祖国フリカの滅亡に協力するのは、ひとえにその復讐を成し遂げるためである。


 当初、アーク・ルーンにフリカ王の首を求めたが、今ではその点へのこだわりはなく、サクリファーンとした父親の命は取らないという約束を破る気はない。


 殺してしまえばそれまでだが、生きていれば数々の拷問で命を削り取っていけるのだから。


 より陰惨な復讐の方法に気づいたゾランガは、だからこそフリカ王の身柄が手に入る策を用いたのである。


 私怨のために利用された形のアーク・ルーンだが、別段、その点に問題はない。復讐のエッセンスが濃くとも、ゾランガの策はアーク・ルーンの方針と実利に反するものでない以上、とやかく言う必要はないというもの。


 むしろ、アーク・ルーンの利益が確保されているなら、当人のモチベーションを下げぬためにも、凄惨な復讐劇にいくらでも手を貸すのが、ネドイルの築き上げた現体制である。


 復讐に狂いつつも、アーク・ルーンへの舞台協力費に思案が巡らせるものの、報告に来た部下はそれだけで安心できるものではなかった。


 まだ短いつき合いとはいえ、ゾランガが元来、善良で穏やかな人柄である点も知っていれば、そんな高潔な人格が復讐の念で一変する点も思い知らされている。


 フリカ王への狂気的な復讐心を知る者としては、上司に内戦が終結した理由を口にしたくないが、さりとて内容が内容だけに握り潰すわけにもいかない。


「それでいつだ! いつ、フリカ王の身はここに移送されるっ!」


 普段の落ち着いた態度からは想像もできぬほど、鼻息すら荒くする上司の切実な復讐心に心理的に後ずさりしつつも、


「王太子サクリファーンが申すには、父親の身柄は自分たちで手厚く葬りたいとのことです」


「……なっ! それはどういうことだ?」


「それが、フリカ王は乱戦の最中、落命したそうにございます」


「何だとっ!」


 喜色は一瞬で消え去り、愕然とゾランガは立ち尽くす。


 報告すべきことを終えた部下、その密偵はもう立ち去ってもいいのだが、復讐心以外の部分、人格面や能力面に敬意を抱いており、


「うおおおっ、なぜだ……なぜ、あのような無道な男をあっさりと殺した!」


 家族を亡くし、祖国を捨てた身の唯一の支え、復讐を失い、号泣する上司を放置できず、痛々しいまでに泣きわめく姿を黙然と見守る。


 そして、ゾランガの悲しみは沈痛なだけではすまなくなったか、


「天よ! なぜ、私の家族は苦しんで死なせたというのに、あの悪王を楽に死なせた! フリカ王に報いを与えられぬ人生に何の意味を見出だせというのだ!」


「お、お止めください!」


 不意に立ち上がり、涙を流しながら、天幕の支柱に額を何度も叩きつけ、割れた額から血が噴き出る上司を、部下は羽交い締めして止める。


 羽交い締めした部下は、あまりに激しく暴れるので、外の兵を呼ぼうとした矢先、


「……まだ、だ。王はいなくても、フリカ王家は残っている。そうではないか、王家があるのだ。王の無道を裁かれずとも、王家の無道を裁けばいいではないか」


 果たせぬ復讐が形を変えて残り、歪な形ながら支えを得たゾランガは、号泣から一転、哄笑を上げて絶望の淵から脱する。


 フリカ王家を根絶やしにするために。


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