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暴竜編90-4

 フリカ王国で起こされた内乱は、その日、誰もが望まぬ形で終息した。


 魔法帝国アーク・ルーンに降伏することで、国は失われようが民の平安は守ろうと考えていたフリカの王太子サクリファーンは、その心理をゾランガに利用され、降伏を拒む父王を捕らえんとクーデターを起こした。


 サクリファーンは一挙に父王を捕らえ、王都を掌握するつもりだったが、ゾランガが秘かに息子の動向を父王に伝えた結果、フリカ王国は内乱へと突入した。


 ゾランガが秘密裏に伝えた息子の情報に、まさかと思いつつ備えていたフリカ王は、サクリファーンの差し向けた兵と王宮からの脱出に成功する。


 当初はフリカ王にしても、息子を一喝するだけで事を収めようと考えていたが、サクリファーンが譲らぬ態度を見せた上、内通者らが王太子に与していることを知ると、我が子が裏切ったと信じ込み、王も兵を集めたため、フリカ王国は王と王太子の勢力が真っ向から激突する、内戦状態となっていった。


 親子の争いが王都での市街戦ですんでいたのは、ごく短い間だ。王太子派に内通者らも加わり、王の側が兵力的に劣勢なのが明らかになると、フリカ王は地方のフリカ軍を王都に呼ぼうとした。


 地方の部隊が王に下に集っては、一転して王太子の側が劣勢になる。それゆえ、サクリファーンは父王に倣い、地方の貴族や軍隊に書状を送ったため、フリカ王国は各地方でも王派と王太子派に分かれての戦いが始まった。


 フリカ軍同士による戦火は、フリカ王国の全土で巻き起こったが、最も激しい燃え上がっているのは、言うまでもなくフリカの王都である。


 騎士や兵士のみならず、竜騎士もほぼ二つに分かれての、フリカ軍とフリカ軍による市街戦は、戦力的に王太子の側が優勢であったため、フリカ王が市民を徴兵しまくり、息子の手勢に対抗しようとしたのが、敗因になった。


 フリカ王が一部の市民を強引に兵士に仕立てた結果、王都の民の多くが王太子の味方になり、また王に従っていた騎士や兵士にも、市民を無理矢理に戦わせるフリカ王のやり口に反発し、王太子の元に走る者が現れると、これでフリカ王の敗北を確定した。


 息子から再三、投降を呼びかけられても、それを拒み続けたフリカ王は、少なくなった手勢で最後まで抗い続け、無用に王都の騒乱と荒廃を長引かせたが、それも潰える時を迎えた。


 街路に築いたバリケードが破られ、少ない手勢が懸命の防戦でより少なくなっていくじり貧の状態となり、フリカ王の間近まで王太子派の手勢が迫り、流れ矢が足元に突き刺さるまでの状況に追い込まれた時、


「陛下! もはや、この場では勝ち目がありません! 地方の味方と合流し、再起を計りましょう!」


 王派の竜騎士がエア・ドラゴンを駆って王の側に着陸するや、乗竜の背からフリカ王に手を伸ばす。


「おお、助かったぞ。早くここから連れ出してくれ」


 流れ矢がいつ当たりかねないフリカ王は、安堵の表情を浮かべて手を伸ばし、救いの手を一度はつかむ。


 切羽詰まっていたからだろう。王が自分の手をつかむと、竜騎士は慌てて乗竜を飛び立たせ、王の手を握り締めるのを後回しにした結果、手を滑らしたフリカ王は地面に落ち、後頭部を強打する。


「陛下!」


 強引に飛び立ったばかりのエア・ドラゴンを急停止させ、その竜騎士は眼下の主君に必死に呼びかける。


 割れた後頭部から血を流す王が答えられる状態でないのを半ば悟りながら。

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