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暴竜編66-1

「いやはや、ここまでうまくいくと、笑いが止まらないどころか、腹を抱えて笑いたくなるね」


 夜明けまでにはまだまだ時を要する暗い空の下、二頭のドラゴンによって全滅した山村を眺めながら、この惨劇の発案者たるザゴンは、絶えずにやっにやっと嬉しげな笑みを浮かべていた。


 山村の壊滅のみならず、その中に混ざる二つの死体、正確にはその二つの高貴な方、最初から最後まで思った通りに踊ってくれたバカなガキの骸が転がっており、自分の策が最良の結果を得たのだから、笑いが止まらない心境になるのも当然だろう。


 当人からしても、自分の策がうまくいきすぎた、と思っているくらいだ。


 一応、最良の結果が出るように知恵を巡らしはしたし、色々と小細工もした。ネブラースと並ぶ主戦派の代表格のノルゲンのことを調べ、この山村に秘密裏に交渉を持ち、毒殺するように仕向けたのも、小細工の一つだ。


 だが、そうした小細工が必ずうまくいくように計ったわけではない。フィアナートもノルゲンがネブラースを連れ、この山村に落ち延びるのが最良の結果を生むと知っていても、確実にそうなるように戦ったわけではないので、ザゴンの策が大成功したのは偶然による部分が小さくなかった。


 強いて言えば、うまくいきすぎるほど、ザゴンが、いや、アーク・ルーン軍が運に恵まれたと言えよう。だが、それはタスタル軍が大敗した原因が、徹底的に運に見放されたためであるのを意味しない。


 アーク・ルーン軍がうまくいくように行動していたのに対して、タスタル軍はうまくいくと思い込んで行動していた。そうして、うまくいくように行動していた一つ一つの積み重ねがあるからこそ、ちょっとした運で大成功することができたのだ。


 もちろん、ザゴンは運頼みの作戦など立てていない。ここでネブラースが死に、行方不明にならずとも、タスタル王国が背信行為を行った段階で、策は成功しているのである。


 イチャモンのつけようはいくらでもあるのだから。


 とはいえ、せっかくのチャンスをフイにしてももったいないから、


「てめえら、生存者がいないか、徹底的に捜せ。それと、王子様の遺体、これは絶対に発見するんだぞ」


 遠くから様子を見ていたザゴンは、二頭のドラゴンが飛び去ってから、全滅した山村に踏み込み、率いてきた五十人ほどの兵に、生存者の捜索を命じる。


 山村は人口百人ほどの小さな集落なので、五十人で調べ尽くすのに大して時間はかからない、とはならなかった。


 二頭のドラゴンの攻撃力は伊達ではなく、家屋のほとんどが倒壊しているのだ。


 倒壊した村長の家から、ネブラースの死体を引っ張り出すのはもちろん、瓦礫の下に生存者がいるかも知れない。


 このような山村に人は滅多に来ないだろうが、たまたまやって来た近隣の村人や旅人などが、下敷きになりながらも生きている者を発見して救助すれば、アーク・ルーンにとってマズイ証言が後から出るかも知れない。


 ドラゴンの力は強大だが、けっこう大雑把な生物なので、取りこぼしは充分に考えられ、


「ザゴン殿。床下に子供が三人、隠れていましたが、どういたしましょう?」


 実際にそのような報告が届く。


 あの混乱の中、何とかドラゴンの圧倒的な攻撃力から、三人も子供を生き延びさせた村人らの機転と行動力は称賛に値すると言えるだろう。

 もちろん、その三人がドラゴンに殺されずにすんだのは、幸運によるところが大きいが、


「おいおい、そんなの決まって……いや、そうだな」


 報告に来た兵士が、内心で非情な命令に反発を抱いているのに気づき、ザゴンは腰からノコギリ状の刃の短剣を抜くと、ニタアッと笑ってから生存者の処置を伝えた。


「安心しろ。イヤな仕事をやらせる気はない。そのガキどもはオレが何とかする。オマエはここに連れて来たら、引き続き生存者を捜せ。ここからなるべく離れた所で、な」




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