暴竜編49-2
「キ、キ、キサマァッ!」
玉座への放尿を終え、ザゴンが下げたズボンを上げ終わると同時に、ネブラースは怒りに形相を歪ませ、怒声を張り上げながら立ち上がる。
「ハアアアッ!」
ネブラースだけではない。ナターシャを除くノルゲンら竜騎士は怒りのままにドラゴニック・オーラを発現させていく。
さらに竜騎士以外の武官、文官すらも、唖然としているタスタル王やナターシャの前で怒りに拳を握り締め出す。
「ハアアアッ!」
この場で最も怒り狂い、我を忘れているタスタルの王子は、ザゴンに向かって駆け出し、ドラゴニック・オーラでおおった右拳を振り上げ、
「ハアアアッ!」
「くっ!」
素早く二丁のトンファーを構えたイリアッシュがザゴンとの間に入ったため、仕方なく足を止めたネブラースは、振り上げた拳を下ろして身構える。
「槍よ! 刺し砕け!」
ネブラースにやや遅れ、ノルゲンらもザゴンに向かって駆け出そうとした瞬間、フレオールは足元に真紅の魔槍を突き立て、床に大穴をうがつ。
魔槍の一撃による破壊音が響き、怒勢と気勢を削がれてノルゲンらが動きを止めるや、一斉にアーク・ルーン側が動き出す。
正確には、フレオールの元にベルギアットとザゴンが集い、次いでネブラースを牽制しながらイリアッシュも合流すると、
「ガアアアッ!」
魔竜参謀の咆哮と共に空間に歪みが生じ、四人の、正しくは三人と一頭の姿が、謁見の間からかき消える。
ベルギアットの空間転移により、タスタルに対する国辱的行為の恥をすすぐ標的を見失い、場に戸惑うような空気がしばし流れたが、
「アーク・ルーンを討て! タスタルが受けた恥辱を晴らすのだ!」
「うおおおっ!」
アーク・ルーンというよりも、ザゴンのこれまでの振る舞いにフラストレーションがたまりまくっていたためだろう。ネブラースの発した怒声に、多くの者、竜騎士や騎士を中心に雄叫びを上げて応じる。
「まずは裏切り者らを討て! それから兵をまとめ、外のアーク・ルーン軍と決戦ぞっ!」
ノルゲンが具体的な指示を発すると、荒ぶる怒気はこの場で平伏したままの者たちへと向いていく。
祖国よりも己の利益を取った内通者はいくらでもおり、この謁見の間にもいる。
「……お、お許しください、でん……がはっ……」
内通者の一人がネブラースの手刀で胸を貫かれると、ノルゲンらは次々と王子に倣う。
竜騎士の強さは言うまでもない。謁見の間に命乞いをする者や逃げようとする者がいなくなると、
「裏切り者も侵略者もまだいるぞ! 奴らを全て討ち取る! 我に続けっ!」
「うおおおっ!」
両手のみならず、全身を返り血で染めたネブラースの怒号に、同じく血まみれのノルゲンらも叫んで応じ、王子を先頭に次々と謁見の間を飛び出して行く。
内通者らの骸と、呆然とへたり込むタスタル王やナターシャらを残して。




