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暴竜編14-3

「……はあ、お、おのれぃ……ミス、はあ、トールめ……はあ、次、はあ、見ておれ、はあ……我が兵、はあ、まだ、はあ、充分に残って、はあ、おる……はあはあっ……」


 日頃の不摂生がたたり、地面に大の字になるヨーク伯爵は、激しくあえぎながら口にする負け惜しみは、決して虚勢を張っているだけのものではない。


 数に劣るマードックらに大敗し、その追撃を何とかかわしたヨーク伯爵は、その日の夜になってようやく落ち着き、負け惜しみを口にできる所まで逃げ延びることができた。 敗残のヨーク伯爵の周りにいるのは、三百人ほどの手勢だが、これは残存戦力の全てではない。


 無秩序な敗走で味方が散り散りとなっただけで、ヨーク伯爵の兵は八割以上が健在だ。


 本拠地たるヨーク市に戻り、逃げ散った兵を呼び集め、軍勢を立て直せば、充分に復讐戦を挑めるという計算は、決して間違ったものではない。


 二千以上の兵力をうまく用いれば、マードックらを打つ破ることができるがゆえ、


「伯爵閣下っ! 敵襲でございます!」


 命からがら戦場を脱したヨーク伯爵以下三百名に、ムーヴィル率いる二隻の魔道戦艦と百の兵が襲いかかる。


 去年、ミストールとムーヴィルはワイズの地で、ヅガートが兵を決戦用と追撃用に分け、連合軍を再起の暇を与えずに撃破した戦法を体験しており、それを今度は自分たちが用いたのだ。


 百対三百とはいえ、ヨーク伯爵らは誰もが疲れ切っており、マトモに戦える状態でもなければ、もう戦意そのものが残っていない。


 敵襲の報を受けるや、三百の兵はほとんど戦わずに逃げ散ってしまったので、あえぎながら二人の騎士に支えられて立ち上がったヨーク伯爵は、息を切らしながら逃げようとはしたが、


「そこまでだ。死にたくなければ、おとなしく降伏しろ」


 軍馬に跨がり、五人の兵を引き連れたムーヴィルが、馬上から槍を突きつけ、その足を止めさせる。


「はあ、こ、この下郎……はあはあ、わしを……ぶべっ……」


 荒い呼吸で己の身分を誇示しようとしたが、二人の騎士二人さっささと手を放して剣を捨てたので、支えを失ったヨーク伯爵はそのまま倒れ、地面に顔を打つ。


「縛り上げろ」


ムーヴィルの命令に従い、抵抗する気力もないヨーク伯爵は、二人の兵士に縛り上げられるが、歩く気力もないので、捕虜の重さとぜい肉に、縄を手にする兵士は、困ったような表情を浮かべる。


 長年、自分たちを苦しめてきた大貴族の無様な姿に、ムーヴィルはそっとため息をついてから、


「……キリキリ歩かせろ。動かんのなら、ケツでも叩いてやれ」


 さすがに槍の柄で尻を叩かれたヨーク伯爵は、痛みに立ち上がり、のろのろと歩き出す。


「ぴぎぃ〜っ」


 ケツを叩かれる度、絞め殺されるブタのような悲鳴を上げながら。



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