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暴竜編12-3

「ハッ! ハッ! ハッ!」


 素早く繰り出された真紅の魔槍の三連突きが、立ちふさがった三人の衛兵をあっさりと倒し、


「ハッ! ハッ! ハッ!」


 さらに倒した三人に再び三連突きをかまし、フレオールはトドメを刺しておく。


 フリカ王宮に侵入し、一人の囚人を牢から連れ出した三人、正確には二人と一頭、フレオールとイリアッシュ、そして魔竜参謀ベルギアットは、行く手を阻むフリカ騎士や衛兵らを次々と殺し、堂々と正門に向かっていた。


 ライディアン市での戦いは、五人の七竜姫が帰国を選んだ段階で、ティリエランも武器を引いて、苦々しくもフレオールらがドラゴンを仕留めるのを傍観した。


 ティリエランらロペス勢だけでフレオールらに勝てないからだ。


 そうして、自分らを狙うドラゴンを全て返り討ちにし、ライディアン市を去って以降、フレオールらがロペス側に接触することはなかったし、ロペス側もフレオールらを追うことはなかった。


 ライディアン市で倒した狂ったドラゴンは、祖国の作戦と魔道兵器の成果のほんの一部ではしかない。ロペス王国だけでも、狂って暴れるドラゴンは百頭以上もいるのだ。


 ティリエランからすれば、タスタルやフリカに次ぐ祖国のこの惨状でフレオールらと関わっている余裕などない。


 フレオールの方も、廃校確定のライディアン竜騎士学園の周辺は格好の腕試しの場であり、ロペスと関わっている暇はない。


 七竜連合を疲弊させる、マジカル・ウィルス『ドラゴン・スレイヤー』の成果を、フレオールが潰して回るのは、別段、アーク・ルーンの不利益とはならない。


 どのみち、七竜連合は狂ったドラゴンらをどうにかできずに滅び、後始末はアーク・ルーン軍に回ってくるのだ。フレオールが先んじて何頭か殺しても、味方の手間をはぶくだけのことでしかないし、何より五頭と新たに殺さぬ内に、彼の狩り場はフリカへと移った。


 というより、ロストゥルの副官、ヴァンフォールの母親ラティエが心配して、


「そうした修練なら、別にこっちでもできます。危ないからと止めたりしないから、こちらに戻って来なさい」


 遠いロペスより近いフリカの方が色々とフォローできるという意図の元、そう連絡してきたので、フレオールとベルギアットはイリアッシュの駆る乗竜ギガに乗り、ワイズとフリカの国境に陣取る第十軍団の陣地に到着した直後、ラティエによってフリカの王都への潜入任務に参加させられた。


 南北に渡って国境線に長く陣を張るアーク・ルーン軍は、堅固な陣地と多くの見張り台で、狂ったドラゴンがいつ襲来しても良いように備えている。そんな陣地の鼻先で勝手に暴れられると色々と面倒なので、工作員らと共に王都へと向かうよう手配されたのだ。


 敵国フリカ王都に潜入するどころか、その王宮にまで踏み込む危険この上ない任務のように思われるが、実際は危ない橋を渡る必要のない内容ゆえ、ラティエは我が子も同然のフレオールをそこに加えたのである。


 フリカの貴族は百をとっくに越えるほど、アーク・ルーンの保険に加入している。王宮にも、何人も面従腹背のやからはおり、沈みかけている祖国から逃げようとするドブネズミらの手引きで、フレオールらは目的の囚人を、見て見ぬふりをしている看守の元、あっさりとその脱獄を成功させた。


 が、ここでフレオールの悪いクセが出て、わざと自分たちの存在をアピールし、フリカ王宮の廊下を血で染める事態を招いた。


 フリカ王宮は決して小さくなく、衛兵も何百人といるが、大きな建物でも廊下の広さは限られ、それは一度に侵入者の前に立てる人数が限られることを意味する。


 嬉々として真紅の魔槍を振るうフレオールの背後に、ベルギアット、囚人と続き、後背を二丁のトンファーを構えるイリアッシュが守り、竜騎士スメイルを含む三十人以上を討って進む一同は、


「よお、久しぶりだな、シィルエール」


 侵入者の武勇に腰が引け、その歩みに応じて下がるようになったフリカ騎士や衛兵らが左右にのき、数人の竜騎士を従えたシィルエールが顔を見せる。


 お姫様が自ら敵の面前に立つのは、シィルエールがフリカ随一の使い手であるのもあるが、それだけフリカの竜騎士の数が激減しているという意味も含まれている。


 もっとも、フリカの王女は自ら前に出る性格ではないので、彼女が武装してクラスメイトと血生臭い再会を果たしたのは、兄サクリファーンに命じられたからである。


「……フレオール……」


 緊張した面持ちでレイピアを構え、シィルエールは片手で背後にひかえる竜騎士らを抑えながら、思考を働かせ始める。


 ありがたいことに、警戒したか、空気を読んだか、フレオールらは足を止めてくれている間に、


「フレオール、あなたの目的はなに?」


「まっ、この人をうちの陣営までエスコートするってとこだな。というわけで、通してくれんか?」


「……わかった。皆の者、退く。手を出さず、おとなしく、見送る」


 内気な性格をしているが、シィルエールは決してバカではない。


 いかにフリカ王宮、味方がわんさかいるとはいえ、フレオールとイリアッシュのコンビと戦えば、どうなるか?


 ドラゴンが暴走する前ならともかく、今の竜騎士の数では、シィルエールら見習いも加わったとしても、フレオールらに勝てる公算が低い。


 仮に、勝てるとしても、一騎一騎が貴重な現在、竜騎士をさらに失う愚は避けるべきだろう。


 半年未満の学園生活で、フレオールは戦いを求めても、こちらから手出しせねば噛みついてくる人物でないのを知るのはシィルエールのみなので、


「姫様、何をおっしゃられます。賊はたったの三人。この私ひとりで討ち取ってみせますぞ」


「あの二人、私より強い。絶対、手を出したら、ダメ」


 自分より弱い家臣らを必死に抑え、道を開けさせようとする。


 ベルギアットがいる以上、フレオールらはいつでも空間転移できるからこそ、目的の人物を牢から連れ出した後、わざわざ戦いを求めるような行動に出たのだろう。


 だから、シィルエールがフレオールらの逃げ道を交通整理しなくとも、こっちからはもう手を出さないよ、というパフォーマンスを維持していれば、空間転移でどっか行ってくれる可能性は低くくないのだが、


「ガアアアッ!」


 咆哮と共に、シャツにズボンというラフな格好の男が、何人かの衛兵を押しのけ、フレオールへと襲いかかる。


「……止まっ……」


 シィルエールが制止の言葉を途中で止めたのは、その者が家臣どころか、人間でないことに気づいたからだろう。


 ドラゴン族の中にも、人の世の社会常識のカケラくらいは有している個体はいる。


 先刻、フレオールに討たれたフリカの竜騎士スメイルの乗竜であるドラゴニアンも、主の仇を討たんとしたが、王宮にドラゴンの形態で乗り込むのも、裸で乗り込むのもマズイと認識する程度の理解力がはあったため、そのドラゴニアンはフレオールの前まで比較的スムーズで来れたのだ。


 双剣の魔竜レイドと違い、そのドラゴニアンは素手であったが、人の姿であってもドラゴニアンの身体能力は人のそれを大きく上回る。単純な拳の一撃で、人の骨くらいカンタンに砕けるだろう。


 ただし、それも当たれば、だ。


 力強く、その動きは素早くはあったが、レイドの比べると直線的で無駄が多く、フレオールは殴りかかってくるドラゴニアンの拳をつまらなそうな顔で何度もかわし、


「ハッ! ハッ!」


 二連突きを胸と額に叩き込み、またもドラゴンを一頭、返り討ちにする。


「マズイッ! ベル姉!」


「……ガアアアッ!」


「……ハアアアッ!」


 最初に自分の仕留めた相手の変化と危険に気づいた魔法戦士の発した警句に、素早く反応したのは、魔竜参謀とフリカの王女のみ。


 ドラゴニアンの人の姿は、能力による仮のものにすぎず、死んで能力を維持できなくなかれば、当然、本来のドラゴンの姿に戻る。


 それを察して、ベルギアットは空間転移を発動して、三人の人間と共にこの場から消え去る。


 そして、とっさにドラゴニック・オーラで完全防御姿勢を取ったシィルエールは、人の形から急速に膨張していくドラゴニアンの骸から己の身を必死に守った。


 周囲で他の竜騎士らの気合いの声と、それよりはるかに多い悲鳴と、はるかに大きな破壊音を耳にしながら。


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