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入学編17-1

 全長三十メートルに及ぶ巨体は、ドラゴン族で最硬を誇る土色の鱗に覆われ、その背中には翼がない代わりか、数十に及ぶ角が生え並ぶ、バディン王国の王女クラウディアの乗竜アース・ドラゴン『ランドロック』。


 アース・ドラゴンと同じく翼がなく、体格的には劣るが、それでも二十メートルはあろう身を、半透明の鱗に覆われ、その上を分厚い氷が覆う、ロペス王国の王女ティリエランの乗竜アイス・ドラゴン『フリーズドライ』。


 薄く輝く鱗の、アイス・ドラゴンと同じくらいのサイズであるが、背中には小さな翼があり、何より地面に届くほど長いヒゲを特徴とする、タスタル王国の王女ナターシャの乗竜サンダー・ドラゴン『ライトニングクロス』。


 サンダー・ドラゴンと同じくらいのサイズと翼の、熱を帯びた赤き鱗の、ゼラント王国の王女ミリアーナの乗竜フレイム・ドラゴン『バーストリンク』。


 アース・ドラゴンの半分強くらいのサイズながら、背中の翼はサンダー・ドラゴンの倍はある、闇色の鱗に覆われた凶々しい外見の、シャーウ王国の王女フォーリスの乗竜ダーク・ドラゴン『ブラックシューター』。


 ダーク・ドラゴンと同じくらいのサイズだが、ずっとスリムな体型で、ずっと翼が大きい、空色の鱗を持つ、ドラゴン族で最速の、フリカ王国の王女シィルエールの乗竜エア・ドラゴン『スカイブロー』。


 全長十メートルほどで、灰色の鱗と一対の翼を持つ、ドラゴン族で最も小柄でシンプルな外見の、ワイズ王国の王女ウィルトニアの乗竜ドラゴニアン『レイド』。


 自らのドラゴンに跨がる七竜姫らは武器を所持し、身に着けているのも制服や運動着ではなく、きらびやかな甲冑姿で、そのまま竜騎士として出陣できる格好をしていた。


 騎竜親交会。

 例年なら、最初の休学日の翌日に開催される、ライディアン竜騎士学園のレクリエーションの一つで、今年は二度目の休学日から三日後にズレ込んだのは、言うまでもなく入学式から続出したトラブルのせいである。


 全ての教官と生徒が自らのドラゴンと共に参加し、年齢や立場を問わず、優れた教官や生徒が最初にドラゴンの制御と操作を実演する。


 この実演は純粋に力量に優れた者が選ばれるので、王女という理由で七竜姫、新米教官と生徒らが自らの腕前を披露しているわけではない。


 ただ、実力以外にも七竜姫が己の力量を誇示する理由はある。たまたま、彼女たち七人のドラゴンが別種である点だ。


 ドラゴンを駆る基本の知識と技術は同じでも、特性の異なるドラゴンでは、応用の面では異なる。単純に、空を飛べるドラゴンと飛べないドラゴンでは、動かし方が大きく違う。


 例えば、学園長も優れた竜騎士だが、乗竜がアイス・ドラゴンなので、姪に実演を任せている。そもそも、この騎竜親交会は、優れたドラゴンの制御と操作を見学した後、教官と生徒が和気あいあいと、ドラゴンについての制御と操作について語り合い、高い目標と操作、制御の際のコツを得るのが目的なのだ。ゆえに、この時ばかりは教官、生徒は国別ではなく、契約するドラゴンによって集う。


 山野を利用した、百頭以上のドラゴンが集える訓練場で、七竜姫が次々とその腕前を見せ、七人目がその役割を果たして、しかし実演は終了とならない。


 アース・ドラゴンの倍以上の超巨体は、濃緑色の鱗で覆われ、何よりも背中の大きな翼で宙に浮く、ドラゴン族で最大の重量、パワー、巨大さを誇るギガント・ドラゴン『ギガ』は、イリアッシュの乗竜であり、武器を所持し、七竜姫らに劣らぬきらびやかな甲冑姿の彼女は、七竜姫らに勝る技量で、自らのドラゴンを駆る。


 その巨大さゆえ、ギガント・ドラゴンは特に動かすのが難しいとされ、特に小回りが効かない。


 ギガント・ドラゴンを乗竜としている生徒は、イリアッシュ以外に何人かいる。が、彼らの中で七竜姫に比肩する者はおらず、また誰もが姫君と比べて未熟さを理解して辞退したので、熟考の末、ティリエランと同様、イリアッシュが四年連続でこの場で実演を行うことになった。


 操作が難しいギガント・ドラゴンが、その超巨体からは想像もできぬほど軽快な動きを見せた後、実演のトリを務めるドラゴンは、全長はアース・ドラゴンに近いが、ヘビのような細長い、この場で他に類を見ない外見のドラゴンだった。


 ドラゴン族の体型は、トカゲやワニのようなものばかりで、亜種ならば人型やヘビ型などがいるが、そのドラゴンはそうした亜種とも異なる、この世界のドラゴン族とは完全に異質な存在だった。


 頭部の形は他のドラゴンと同じだが、そこに生える一対の角は鹿のもの。そこから伸びる胴体と尻尾には小さな手足がついているが、羽や翼の類が備わっていないにも関わらず、その巨体は宙に浮いていた。


 当人いわく、同系型がいるとのことゆえ、この世界で唯一の存在というわけではないのだろう。が、この世界が発生させた生命ではなく、異界の魔術師が作り出した、魔法戦士フレオールの乗竜、魔道のドラゴン『ベルギアット』。


 実演させても誰の参考にもならないドラゴンを衆目にさらすのは、魔竜参謀の力を皆に知らしめるためだ。


 魔法帝国アーク・ルーンの大隊を単体で撃退したその力、それはクラウディアらがいずれ相対せねばならないものだ。イリアッシュは実力こそ高いが、それは誰もが承知しているので、いくらでも対応策が打てる。その乗竜であるギガの周りには、ウィルトニア以外の七竜姫のドラゴンが常に警戒に当たっている。が、問題なのは、データが不充分なフレオールと、特にベルギアットだ。


 フレオールは七竜姫の何人かが必ず側にいるようにしている。ベルギアットに対しては、レイドらドラゴニアンがそれとなく見張りについている。が、それで充分か、データが少ないために判断ができない。


 それでも、フレオールは実技訓練を通して、その実力を計っていける。先日の二年生のように、授業のタイミングで、校庭を見ることはできた。だが、ドラゴンを用いた訓練は、とても校庭でできるものではないので、校舎からは遠くて見ることはできない。だから、クラウディアらは考えた末、フレオールに実演をやらせて、全員でベルギアットを見る機会を設けたのだ。


 もちろん、小娘の意図がわからぬような魔竜参謀ではない。ゆえに、ベルギアットは惜しみなく、自らの重力を操る能力を披露した。すでに謀略の仕込みは終わっているが、そこから目をそらさせることができれば、さらに万全だ。


 ベルギアットは重力を操り、宙に浮かせた土石の量は大したものではないが、それで文字や記号を描く。


 その背に立つ、地味な革鎧を着けたフレオールは、手にする魔槍を捨てると、バク転や宙返りなど、次々と軽業を披露していく。


 人とドラゴンの大道芸に、ほとんどの者が失笑するが、学園長と七竜姫は険しい顔をしていた。


「どういうつもりだ?」


 クラウディアのつぶやきは、他の七人も同様に抱いている疑問だった。


 道化を演じて、こちらを油断させる。が、それなら、能力を隠す方が良いのに、わざわざ自分の手札を開けているのが、彼女たちにはどうにも理解できないが、それは当然だろう。


 単にふざけているだけなのだから。


 これから先の授業数を思えば、いちいち能力をごまかしていられるものではない。授業内容など、向こうの好きにできるのに、隠そうとしたところで、教官の権限でカンタンに手札をめくられてしまう。だから、隠しても無駄な手札はとっととオーブンにし、無益な駆け引きをしなくていいようにしたのだ。


 かくして、魔法戦士と魔竜参謀は、ひたすら人とドラゴンの前で大道芸を披露し続け、騎竜親交会の実演は終了した。


 大事な手札は伏せられたまま。



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