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過去編65-1

 ヅガートの夜襲を受けた後、七十騎もの竜騎士を動員した索敵も不発に終わり、伏兵を警戒をしながら進んだ連合軍の前にまず立ちふさがったのは、クメル山から敗走したワイズ軍であった。


 文字どおりクメル山から追い落とされた味方から、アーシェアは敗戦の原因を知ったが、彼らを手早く手勢に組み込み、早々に進軍を再開し、次の日の朝方にはクメル山のふもとに到着すると、そこにも新手のワイズ軍が待ち構えていた。


 負傷や逃げ場を失ったなどの理由で、アーク・ルーンの捕虜となっていたワイズ兵たちが解放してもらえ、そこで友軍の到来を待っていたのだが、それだけではない。クメル山の戦いで、山道から押し出されて転落したものの、動ける程度の軽い打撲ですんだワイズ兵も、自力で下山して所々が腫れ上がった体を横たえていた。


 彼らは即戦力にならないが、傷が癒えて武具を支給すれば、戦列に立たせることができる。


 そして、アーク・ルーン軍はクメル山に陣地を築き終えており、とても短い時日で攻略できるものではなく、負傷兵らを休ませる時はいくらでもありそうだ。


 解放された捕虜たちの話によれば、アーク・ルーン軍はかなり大量の物資、おそらく兵糧を運び込んだそうだが、敵が陣地を築き終えた今では、その方がある意味でありがたい展開と言えよう。


 クメル山は力攻めで落とせるほど、生易しい地形をしていない。アーク・ルーン軍のように、何かしらかの策が必要だが、アーシェアは自分の策が通じると考えるほど、ヅガートらをなめていない。


 どれだけ大量の兵糧を用意していようが、十万人が消費するのであれば、百日、いや、五十日ともたないだろう。もちろん、連合軍はアーク・ルーン軍の倍以上の兵糧を必要とするが、敵地の奥深くの山中に輸送する労に比べれば、補給の利便性においては雲泥の差がある。


 いかに倍以上の兵を有しているとはいえ、指揮系統がバラバラな連合軍の実態を思えば、アーク・ルーン軍が下山して来て正面から戦いを挑まれる方が困る。長期戦になって時を得られれば、連合軍を再編成するなりにして、マシに戦えるようにするのも不可能ではない。


 無論、そのあたりをアーク・ルーン軍がわかっていないとは思えず、敵がこちらの弱点を突かない点にアーシェアも不審を覚えないわけではない。だが、敵の行動を深読みしすぎるのは危険である。何より、マトモに戦わずに対陣を長引かせ続け、冬にまで持ち込めばワイズ側の勝ちとなる。


 冬の山中に陣取っていられるものではない。アーク・ルーン軍がいかに優れていようが、天候自然にかなわないのは明白だ。冬が訪れるか、その直前には下山して撤退するしかなくなる。


 そこを追撃して打撃を与えられずとも、見送るだけで次の春まで時を稼げる。


 それゆえ、クメル山のふもとに到着したアーシェアは、アーク・ルーン軍が出撃して来ても耐えられるだけの堅固な陣地を築くように命じるより先に、


「さあ、ご一同! ついにアーク・ルーンの背信に鉄槌を下す時が来ましたぞっ! あの山を連中の骸で埋め尽くしましょうぞ!」


「うおおおっ」


 ゲオルグの呼びかけに、多くの者、ワイズの者まで拳を振り上げて気勢を上げた。


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