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過去編28-1

 ワイズ王国に再侵攻してより二十八日目の夜、それまで守勢と迎撃に徹していたアーク・ルーン軍が全面攻勢に転じた。


 魔道戦艦五隻による集中放火は、ワイズ軍の陣地の一点、二十日以上をかけて補強した二重の柵を打ち砕く。


 そして、そこに殺到して行くのは、先日の雪辱に燃えるタルタバの師団だが、


「ガアアアッ!」


 柵が砕け散った場所に、咆哮を上げたアース・ドラゴンが土の壁を作り出し、その足を止める。


 ワイズ軍は日が経つほどに気をゆるませていったが、その中でアーシェアは味方を叱咤し続け、警戒を怠ることなく努めたゆえ、アーク・ルーン軍の突入を防ぐことに成功した。


 もっとも、十万の大軍の移動である。音を立てないように気をつけても限度があり、その点はアーク・ルーン軍も心得ている。


 突入路を塞がれたが、それは想定の内。さらに七隻、計十二隻の魔道戦艦が砲撃を加えつつ、タルタバは配下の弓兵たちに矢を放たせ、突入地点を再び設けようとする。


 タルタバたちの猛攻に、さらにアース・ドラゴンとアイス・ドラゴンを駆る竜騎士を派遣し、その三騎と一千の弓兵が土と氷の壁で砲撃を防ぎつつ、矢を射ち返して、敵兵を陣地に寄せずに半時が経過する。


「各人、私の命があるまで、その場で待機。常に敵に備えていよ」


 徹底してアーシェアは兵にその命令を守らせた。


 猛攻を仕掛けているのは、敵のほんの一部である。一部の兵に激しく攻めさせ、そこに守備側の耳目と兵馬を集めさせてから、残る兵で手薄となった場所に取りつく。攻城戦で良く見られる手段であり、それを警戒したアーシェアの読みは、アーク・ルーン軍によってその正しさが証明される。


 約半時に渡ったタルタバが兵を退かせたのと前後して、不意に別の地点に砲撃が加えられる。


 それも一度に五ヵ所も。


 さらに、百以上の魔甲獣も突進させる。


 タルタバの猛攻に意識を向けていたワイズ兵たちだったが、アーシェアの警告を受けていたので、やや慌てながらも、アーク・ルーン軍の攻勢に対応していく。


「竜騎士たちよ! 砲撃で空いた場所を自らで防げっ! 兵たちは魔甲獣の片足を潰すのに専念せよ!」


 アーシェアの命に従い、ワイズ軍が必死の防戦に努める。


 魔道戦艦や魔砲塔の砲撃で壊された箇所は、竜騎士たちが守りについていく。ワイズ兵も矢や槍、時に石を魔甲獣の片足に集中させ、その機動力と突進力を弱めようとする。


 陣地だけではなく、一部のアーク・ルーン兵は砦に攻め寄せているが、そちらは砦の兵を牽制するだけのものと見抜き、


「イリア! オマエはあちらの敵を防いでくれっ! 私はあちらに向かうっ!」


 乗竜の暗視能力を用い、後方から全体の指揮を採っていたが、二ヵ所で突破されかかると、アーシェアは自らどころか、イリアッシュすら動かさねばならなくなった。


 竜騎士を一騎ずつ倒し、二つの突破口を開いたのは、ヅガートとランディールの率いる一隊である。


 正確には、ヅガートは魔魔砲塔の砲撃で巧みに気を引きつけている間に、接近させた魔道戦艦の至近距離からの砲撃で竜騎士を撃ち倒したが、もう一騎を倒したのはランディールというより、それに同行したフレオールの投じた真紅の魔槍だ。


 そうして空いた二ヵ所に、ヅガートとランディールは兵を進めたが、


「ハアアアッ!!」


 間一髪で、乗竜を駆って間に合った二人の女性が、何人ものアーク・ルーン兵を殺したので、第十一軍団の軍団長と参謀長は兵に退くように命じる。


 自ら二本の槍を振るい、瞬く間に十のアーク・ルーン兵を倒したのみならず、アーシェアは竜騎士が撃ち殺され、動揺する周りの兵たちを鎮めてまとめ上げ、ヅガートが思わず「ほうっ」と唸るほどの防衛態勢を整えていく。


 一方のイリアッシュも、従姉のようにワイズ兵をまとめ上げこそしていないが、単騎でランディールらに睨みを効かしただけではない。


 ギガント・ドラゴンの巨体を、正に肉の壁としつつ、遠距離精密射撃で長ける彼女は、ドラゴンの視力で指揮官を見つけ出すと、ランディールの頭部に放ったドラゴニック・オーラを直撃させる。


「痛ててっ」


 兜のヒモが千切れて飛ぶ衝撃に、ランディールは顔をしかめて首筋を押さえるが、直撃すればドラゴンをも貫くイリアッシュの攻撃を食らって無事なのは、ベダイルの開発した、ドラゴニック・オーラを弾くコーティング技術のたまものである。


 ただ、ドラゴニック・オーラ自体は弾けても、その際の衝撃はどうにもならない。ランディールのように体格に恵まれ、首が太いから痛める程度ですんだが、標準的な体つきの者なら、首の骨が折れる可能性もある。


 もっとも、イリアッシュほどの出力でドラゴニック・オーラを放てる竜騎士は他にいないが。


「……フレオール卿、留まりあれ」


 首の痛みが増し出したランディールは、それをこらえつつ突っ込もうとする司令官を制止する。


 暗視の魔法こそ用いているが、フレオールの目にはギガント・ドラゴンの背にあるイリアッシュの姿は、人の形をした影くらいにしか見えない。が、細部を視認できなくとも、的確にランディールを狙い射ちした腕前は、フレオールは武人の血を熱くするどころか、我を忘れさせるほどに沸騰させた。


 元は大剣一本で世を渡り歩いていた一介の武芸者ゆえ、イリアッシュの実力を気づいたからこそ、むしろランディールは体温が下がったように冷静となってフレオールの勝手を未然に防ぐ。


「貴殿の実力を疑うつもりはないが、あの竜騎士はマズイ。無論、フレオール卿を含め、何人かでかかれば倒せるだろうが、司令官としての責務を考えてください。ヅガート閣下に倣ってもらわねば困るのです」


 イリアッシュを竜騎士とカン違いしている点を除き、的確なランディールの見解、作戦に支障が出かねない点を指摘されては、フレオールも騒ぐ血を抑えるしかない。


 さらに十五の若造に対して、武人としても軍人としても先達である大男は、


「犠牲を出してまで無理に目の前の敵を突破すれば、無駄に兵を何人も死なせるだけではなく、ヅガート閣下の計らいも無駄になるのです。だから、我らは待たねばなりません。タルタバ殿とクロック殿が動くまで」



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