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入学編9-1

「約定どおり、この身を好きにしてくれ」


 バディン王国の王女クラウディアは、頭を垂らしながら自らの言葉を守ろうとする。


 ライディアン市で五人目の死者が出た日、再びライディアン竜騎士学園はハチの巣をつついたような、大騒動が巻き起こった。


 再び教官がドラゴンを駆り、ロペス王の元に訃報と不祥事を伝えに飛び、翌日は再び全学年を自習にして、せっかく組み直したカリキュラムを無駄になってしまう。


 再度の非常事態に、ターナリィ、クラウディア、ミリアーナ、さらに教官らも全て戻り、加えて今度はロペスとバディンの合同調査団が編成されることも決定された。


 休学日から二日目、戻った学園長が緊急集会を再び開いたものの、その日も自習となり、学園側は事後処理に奔走しつつ、授業再開の準備にようやく着手できるようになった。


 ターナリィらが戻る前に、その場にいたナターシャの見聞きしたことをまとめ、さらにシィルエールによる魔術的な検証も行い、報告書にして提出している。


 フレオールが五人目の犠牲者を殺した魔法『マジカル・リフレクト』は、相手の攻撃を一度だけ受け止め、かつそれをそっくりと相手に返すというものだ。


 新たに死んだバディンの男子生徒は、ドラゴニック・オーラを込めた拳で、フレオールの後頭部を砕かんとした結果、自らの後頭部を砕いてしまったことになる。


 被害者がフレオールを痛めつけるだけだったなら死ぬことはなかったので、前回のザナルハドドゥの時と違い、過剰防衛と反論し難い。


 また、事前に飲酒していた形跡があり、挑発されたわけでもないのに、いきなり相手を殺しにかかったのだ。バディンとしては弁明の余地が少ない。


 しかも、死ぬ前にシャーウの女子生徒に殴りかかり、ライディアン市の一角で器物破損しているのだ。事情を聞いたクラウディアは、まずフォーリスとティリエランに頭を下げた。


 五人目の犠牲者と共に暴れた二人の男子生徒に対して、ターナリィは停学処分としたが、やはりネックはフレオールである。


 ナターシャの報告書を読み、様々に検討したが、処罰できる要素がなかったので、ターナリィは自分の半分くらいしか生きていない学生に頭を下げ、自主的に自室待機をしてもらい、条件つきでフレオールはそれに応じたので、被害の拡大はこれで防げたわけではなかった。


 学生寮の自室でおとなしく、イリアッシュに勉強を見てもらっているフレオールをクラウディアが訪ね、けじめをつけようとしているからだ。


 今回の件でも、バディン側に犠牲者が出ているが、非がどちらにあるかは明らかである。ゆえに、クラウディアはたった七日前に口にした言葉を守るため、自らの身をフレオールに任せようとする。


「……ナ、ナニを、この身をどうされようと、文句はない。いや、文句を言える立場ではない。フレオールよ、す、好きにしてもらってかまわない」


「いやあ、まさかこんな形でクラウと姉妹になるとは思いませんでした」


「黙れ、イリア」


 イリアッシュの後頭部を軽くはたくフレオール。

 ベッドが二つ、タンスと本棚とテーブルのある、ライディアン竜騎士学園の学生寮の典型的な相部屋に、フレオール、イリアッシュ、ベルギアット、クラウディアの四人がいるが、元から数人の学生が集まって勉強できるくらいの広さがあるので、二倍程度の人口密度では狭く感じることはなかった。


「だいたい、廊下にあるいくつかの気配、たぶん自分たちの姫様の身を案じているバディンの連中だろう。ヘタなマネしたら、そいつらが踏み込んで来るぞ」


「口にタオルでもねじ込めば、大丈夫ですって。念のため、ベルギアット様にこの部屋を異空間とすれば、どれだけ鳴かそうが、邪魔はできませんって」


 再びイリアの後頭部が軽くはたかれる。


 ちなみに、ベルギアットは魔力で部屋ひとつくらいなら異界化できる。こうなると、よほど空間系の魔術に長けた魔術師しか不法侵入ができず、魔竜参謀はフレオールらのいない日中、カギをかけずに異界化してから部屋から出るようにしている。


「信じてもらえんだろうが、オレとしてもトラブルはもう避けたいと思っているんだぞ。お姫様に手を出して、首でもくくられたらたまらん」


「大丈夫ですって。女なんて一度、抱いてしまえば、思いのままですって。へっへっへっ」


「あんたが自由に処分してくれって言うなら、何もしなくてもいいわけだ。これ以上、あんたの家臣を刺激すると、またトラブルの元になりかねん。冗談抜きで、あんたに内股で歩かれると、バディンの男どもがどんな凶行に走るかわからん」


「クラウは女子にも人気ありますよ」


「とりあえず、ここに長居するだけでもマズイ。ただでさえ、周りが神経過敏になっているんだ。変なウワサ一つが次の死体につながると思った方がいい」


 イリアッシュを無視しながら、フレオールは場所の移動を提案する。


 クラウディアが内股で歩かなくても、ここに長居するだけで、フレオールを後ろから刺そうとしたり、バディンの面々が侵略者を囲みかねないのだ。


 それでフレオールが死体になるならまだいいが、バディンの王女がその力量を測ったところ、家臣たちの方が死体の山となる公算が高い。


 そこにクラウディアが加わっても、相手にイリアッシュがいたのでは、バディン側に勝算はない。ウィルトニアやレイドとの連携が、フレオールらに仕掛ける際の最低条件と言えるだろう。


 フレオールはお姫様の返答を待たず、自室のドアノブを握り、


「ってわけで、寮の談話室にでも移動して、誤解されんように話をした方がいい。あと、他の六人も呼んで、犠牲者の阻止について、一度、トコトン話すべきだろう。いや、ホント、オレが言うのも何だが」


 当人が指摘するのも妙だが、侵略者と裏切り者を迎えるにあたり、学園と生徒会の対応が甘かったのが、これまでの惨劇の根本的な原因であろう。


 ウィルトニアの安直な排除案を却下した以上、万全の受入案を練るべきであったのに、安直な受入案ですまし、それが五つの命を失う致命的な事態を招いたと理解し、クラウディアもこれ以上ないほど苦い表情となった。


 が、悲劇を止める手立て、その糸口が見えた以上、七竜連合の盟主国の姫として、進むべき道が見えたと言えよう。


「……わかった。我々が甘かったようだ。私たちが総力を挙げ、オマエに相対すべきだと、今、理解した。重ね重ね下らないマネをした。すぐに皆で話し合うから、そちらも同席してもらうぞ」



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