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竜殺し編24-12

「姫様、伯爵閣下の仇を討ってくだされ!」


 ティリエランにロペス兵が訴えるとおり、乗竜の死と共に、ライディアン市の領主は葬式が必要な状態になっていた。


 竜騎士はドラゴンの生命力を借りることができる。だから、多少の深手でも動くことができ、ドガルダン伯爵もそうして、ライディアン市の領主としての、ロペスの竜騎士としての責務を果たしていた。


 が、どれだけ精神力や責任感が強かろうが、乗竜たるギガント・ドラゴンを失い、肉体に負った深い傷に対し、物理的に耐えられなくなれば、人としての限界を迎えるしかないというもの。


 この異常事態の中、何の光明も見出だせぬまま、不安におののく兵や領民に置き去りにすることに、無念の表情を浮かべて死んでいったドガルダン伯爵のことを思えば、フレオールらを、何よりもアーク・ルーンを許せるものではないが、感情に任せればどうなるか。


 現在、五頭に減った、主を討たれたドラゴンを、七竜姫の六頭のドラゴンが再び押し留めているのは、イリアッシュの乗竜ギガが、建物を踏み潰すのも構わず、避難場所の一つに舞い降りたからだ。


 それゆえ、五頭のドラゴンを解放すれば、ライディアン市の建物を壊すだけではなく、近くにいる避難民にも害を及ぼしかねない。

 不利な戦いはライディアン市の市民を利用して避ける一方、先ほどのように各個撃破のチャンスが訪れれば一挙に動く。


 ギガント・ドラゴンが倒された後、エア・ドラゴンも仕留められたが、その際、シィルエールの対応が間違っていれば、彼女とてどうなっていたかわからないのだ。


 だから、七竜姫も軽々しい行動は取れず、六人が常に一緒であるべきだろう。


 そして、ドラゴンを投入せず、さっきと違って完全武装の七竜姫、六人がかりで二人と二頭を討つのも、軽々しくできるものではない。


 戦い術を持たないライディアン市の市民を使い、戦いを有利に運ぼうとするのは、ライディアン竜騎士学園での乱闘で思い知らされている。ましてや、そうした敵の側には今、ギガント・ドラゴンがいるのだ。


 避難場所でギガント・ドラゴンを交えて立ち回りなども、とうていできるものではない。


 ゆえに、領主の無念を晴らさんと気勢を上げるロペス兵に、七竜姫は応じることはできないが、


「ですけれども、ずっと睨み合っているわけにもいきませんわ」


 フォーリスが言わずもがななことを口にする。


 当面の狂ったドラゴンは全て片づいたが、フレオールらと彼らを狙う五頭を何とかせねば、ライディアン市の非常事態の対応を解除できるものではない。


 最善の解決策は、フレオールらを殺すことだ。七竜姫らとドラゴン十一頭を以てすれば、戦力的に不可能なことではない。が、それを理解しているからこそ、避難場所でフレオールらは七竜姫やドラゴンを待ち構えているのだ。


「では、どうすればいいというのだ?」


 副盟主国の王女の発言に、盟主国の王女は苛立った声で問い返す。


 睨み合っていては、どうにもならないどころではない。ライディアン市の市民のみならず、ライディアン竜騎士学園の負傷者を含めた家臣たちを、いつまでもこの状態で放置していいわけがないのは、七竜姫一同が承知している。


 が、相手より勝る戦力を活かし、この事態を打開する手立てが思い浮かばない以上、正しくどうにもならないまま、睨み合っているしかないのだ。


 だが、やはり長々と時をかけるのはマズイので、


「ねえ、どちらか諦めるのも、視野にいれるべきじゃないかな」

 言い難そうにではあったが、ミリアーナは現実的な妥協を提案する。


 繰り返せば、ライディアン市への人や建物の損害を考慮せねば、戦力的に勝るクラウディアたちの勝利は揺るがない。


 逆に、ライディアン市の被害と死体をこれ以上、増やしたくなければ、五頭のドラゴンを見放せばいい。


 フレオールらと五頭のドラゴンに、ライディアン市の外で戦うように頼み、それにクラウディアたちは手を出さないことを誓う。言うなれば、騎竜親交会の時の同じような状況を設ければいいのだ。


 クラウディアたちが不干渉を明言すれば、フレオールらはライディアン市から出ていくだろう。また、主は失ったが、理性を失っているわけではないドラゴンらも、仇討ちの場を用意すれば、人様に迷惑をかける行為は慎んでくれるだろう。


 だが、騎竜親交会の際、ドラゴンたちは仇を討てず、フレオールに倒されている。クラウディアらが主を失ったドラゴンたちを押し留める理由は、返り討ちに合わせないようにしているという点も含まれているのだ。


「もちろん、フレオールを片づけるのが一番なのはわかるよ。でも、それにこだわった結果が、今の状況なのも理解するべきだと、ボクは思うんだ」


「ですが、相手はたった二騎ですのよ? 向こうを外に引っ張り出しさえすれば、いいだけの話だけですわ」


「そうなると、負けるのがわかっているから、フレオールはなりふり構わずに立ち回っている。それを卑怯や卑劣と非難したところで、何にもならない。むしろ、そうしたぬるい戦い方をしない点に、ボクたちは危機感を抱くべきだと思う。戦力的に大差のないボクたちが、これまでアーク・ルーンに負け続けている最大の要因は、勝つことへの姿勢に徹底しているか、していないかにある。たった二騎と甘く見るボクたちは、現に徹底した戦いぶりの二騎に振り回されているんだ。ともかく、甘さを抱えたまま勝つ方法がないなら、こちらも戦い方を、いや、意識を切り換えるしかないよ」


「あのような鬼畜の所業に倣えと言うかっ!」


 嫌悪感もあらわに吠えるクラウディアも、


「そうして手足を縛ってきたから、これまでフレオールらにいいように振り回されてきた、いや、ボクたちの国が十五万人以上の味方を失ってきたんじゃないかな。フレオールもアーク・ルーンも、ボクたちがどれだけ正しく振る舞おうが、非難しようが、勝つためにどんなこともやることを止めないよ、絶対に」


 副盟主国の王女に続き、盟主国の王女も論破したゼラントの王女だが、非情の論理を持ち出したのは二人を言い負かすためではなく、ロペスの王女に決断を促してもらうためである。


 ライディアン市がロペス王国の領土にある以上、ミリアーナの提案への可否はティリエランしか決めることができない。そして、ロペスの王女が自発的に決断しない場合、それを促すことができるのは、立場的にクラウディアかフォーリス、七竜連合の中でもロペスより国としての格が上な盟主、及び副盟主国だけである。


 ミリアーナの口にした非情の選択を、クラウディアもフォーリスも肯定したわけではないが、ナターシャシィルエールと共にティリエランに視線を集中させ、人とドラゴン、どちらを取るかを無言で問う。


 守るべき民を見捨てるか、盟友たるドラゴンを見捨てるか。あまりに酷な決断を迫られ、苦渋に満ちた表情で立ち尽くすロペスの王女は、結果、同盟国から見捨てられることとなった。


「姫様っ、リッツァの村の者が救援を求めて参りました! 村をドラゴンが襲っているそうにございます!」


 ロペス騎士の一人がそのような報告をもたらすと、途端、ライトニングクロスとスカイブローがドラゴンを押さえるのを止め、無言で跨がった主の意を受け、ライディアン竜騎士学園の方へと飛び去ってしまう。


 タスタルとフリカの王女のみならず、


「……すまない」


 苦しげにそう言うバディンの王女に加え、シャーウ、ゼラントの王女も自らのドラゴンを廃校確定の学舎へと走らせたので、フリーズドライが押さえる以外の四頭のドラゴンは、ライディアン市の避難場所の一つへと突進を始める。


 リッツァの村を襲ったのは、狂ったドラゴンの一頭である間違い。そして、ライディアン市やライディアン竜騎士学園の周りにある村はリッツァ以外にいくつもあり、そこも助けを求めることができなかっただけで、狂ったドラゴンの犠牲になっているかも知れないが、ロペス以外の王女にとって重要なのはそこではない。


 異常事態の連続で気がつかなかったのだろうが、少し考えるゆとりがあったなら、もっと早く七竜姫は分裂していただろう。


 狂ったドラゴンは見境なく人もドラゴンも襲うのを、六人の王女は痛感させられている。そして、ドラゴンが集団を成しているのは、ライディアン竜騎士学園のみだけではない。


 今、この世界で最も多数のドラゴンが一ヵ所に集っているのは最前線、ワイズ、タスタル、フリカの境であり、そこにマジカル・ウィルス『ドラゴン・スレイヤー』を打ち込まれたら、狂ったドラゴンの爪牙はアーク・ルーン兵や連合軍に向けられるだけですまないのは明白だ。


 リッツァの村のような惨劇は、タスタル王国やフリカ王国で、何倍もの規模で起きているのは想像に難くない。ナターシャやシィルエールからすれば、血相を変えて、国境に飛んで行くのは当然の選択である。


 また、アーク・ルーンがせっかくの秘密兵器をバディン、シャーウ、ゼラントに使っていないとも考え難いので、クラウディア、フォーリス、ミリアーナが祖国へと走るのも、当然の選択なのだ。


「……なっ! クラウ! ! フォウ! ナータ! ミリィ! シィル! 頼む! 戻って来て下さい!」


 だが、ティリエランの立場からすれば、必死にそう呼び止めるのは当然のことであるが、クラウディア、フォーリス、ナターシャ、ミリアーナ、シィルエールの立場からすれば、辛そうな表情と心情を抑えて、帰国を急ぐのは当然の選択であった。


 ただ一騎、残されたロペスの王女は呆然と立ち尽くし、敵国の魔法戦士と竜騎士見習いが乗竜と共に、四頭のドラゴンと戦い、数百人のライディアン市民を巻き込みながら、倒していく様をただ眺め続けた。


 妙案どころか、次に自分が何を為すべきかわからぬまま。

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