竜殺し編24-11
フレオールもベルギアットも、何度もライディアン市に訪れ、その地理を把握するのに努めてきた。何より、それよりも詳しいイリアッシュがいるのだ。緊急時、ライディアン市で避難場所となる辺りは知り尽くしており、その一つである広場に転移してみれば、ドガルダン伯爵の兵十人ばかりが、浅くない傷を負った身体にムチ打って、ここまで誘導してきた約三百の市民が不安におののいていた。
「おのれっ、どこまでも卑劣なっ!」
クラウディアが吐き捨てるが、フレオールらはその卑劣な手段を用いねば、この状況で勝機を作り出すことなどできるものではない。
敵の弱い部分を活用して、七竜姫らと何よりそのドラゴンをマトモに戦えないようにする手立てが有効なのは、先刻のライディアン竜騎士学園で証明されている。
新たに現れた六頭のドラゴンに対して、六人の七竜姫は自分の乗竜で押さえにかかり、ドガルダン伯爵は自分のギガント・ドラゴンで、イリアッシュのギガント・ドラゴンに向かわせている。
その中で同胞に邪魔されていないコールドプラスは、避難場所の一つ、フレオールらのいる地点に、障害となる建造物をことごとく凍らせ、砕きながら、一直線に向かう。
「我は求めん! 天より高きに漂う星のひと欠片!『マジカル・メテオ』!」
足元に魔法陣を描き、精神力と魔力を極限まで高め、虚空に右手の人差し指で六芒星を描いたフレオールは、呪文を唱えて、ライディアン市に一個の隕石を落とす。
右前足を実質的に失い、元から素早いわけではなかった動きが、さらに鈍くなったのもあるが、何よりフレオールも漫然と戦っていたわけではない。
コールドプラスの動き、ひいては移動速度の把握に努めていたのだ。古きアイス・ドラゴンが直線的にこちらに向かっている今、その行動予測は難しくなく、
「ガアアアッ!」
とっさに生み出した氷の塊を、高き天より降る勢いを得た隕石は砕いただけてはなく、コールドプラスの巨体も四散させた上、その周囲の建物も吹き飛ばす。
「槍よ! 来い!」
バラバラとなったドラゴンの骸と瓦礫が転がる場所より、フレオールが真紅の魔槍を手元に読んだのは、まだ戦うべきドラゴンが残っているからだ。
フレオールが武器を取り戻すと同時に、ベルギアットが空間転移を行って出現したのは、ライディアン市の外、二頭のギガント・ドラゴンが空中で争う辺りだ。
「あっちです」
「槍よ! 刺し砕け!」
ドラゴンの見分けのつかないフレオールは、イリアッシュが指差した方のギガント・ドラゴンに真紅の魔槍を投じ、その腹部の一部を破裂させる。
腹に空いた穴から大量の血が流れ出し、臓物の一部がはみ出るギガント・ドラゴンは、苦痛に耐え切れず
に地面に着地し、そこに魔法戦士と竜騎士見習いと魔竜参謀の集中攻撃を食らう。
無論、フレオールらが避難民の側から離れたのを知ったクラウディアらは、ドラゴンを押し留めるのを止め、そちらへと急行する。
主を失ったドラゴンらも、仇討ちが目的であり、そのために完全に見境なくしているわけでもないので、ライディアン市に害を成さないように気をつけつつ、仇の元へと急いだ。
が、ドラゴン族でも最高速を誇るエア・ドラゴンですら間に合わぬほど、ドガルダン伯爵は竜騎士でなくなりつつあった。
腹部に深手を負って着地したところを、容赦なくギガがその巨体でのしかかり、上から押さえつけて意識を同胞に向けさせている間に、
「槍よ! 刺し砕け!」
軽快な動きでギガント・ドラゴンによじ登り、傷つけた巨竜の、今度は腹ではなく、頭部に真紅の魔槍を突き刺して、その一部を砕く。
「ハアアアッ!」
フレオールの一撃で、腹部に続き、ずがい骨の一部が砕けて、頭部の中身が飛び出した部分に、イリアッシュはフルパワーでドラゴニック・オーラを撃ち込み、ギガント・ドラゴンにトドメを刺す。
「ガアアアッ!」
そこに、ギガント・ドラゴンが力なく、重たい地響きを立て、地面に倒れ伏したところに、飛来して来た二頭のエア・ドラゴンに対して、ベルギアットは重力を操って圧力をかけようとする。
シィルエールはとっさに方向転換を命じたので、スカイブローは間一髪でのがれたが、もう一頭のエア・ドラゴンは重圧に捕らわれ、失速して地べたへと落ちるところを、
「槍よ! 刺し砕け!」
フレオールの投じた真紅の魔槍に頭部を砕かれ、主の仇を討つどころか、返り討ちに合う。
ギガント・ドラゴンもエア・ドラゴンも倒されると、シィルエールはさらに無理な方向転換を行い、フレオールらに背を向けて飛び去る。
乗竜がいようが、七竜姫一騎でかなわぬと判断したからだ。
シィルエールが他の七竜姫と合流すじ、七竜姫六騎でやって来られては、勝ち目など一片とてない。
それゆえ、フレオールやベルギアットと共に、ギガの背に乗ったイリアッシュは、乗竜を飛び立たせた。
ライディアン市の市民の一部が避難している場所に向かって。