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竜殺し編24-10

 狂ったドラゴンを放置するほど、七竜連合の被害は大きくなり、それはアーク・ルーン帝国の利となるので、元来なら、フレオールらは早々に敵地より去るべきなのだが、人という短き生で武の頂を目指す若者にとって、今は槍を引くべき状況はなかった。


 特に、ターナリィの乗竜であったコールドプラスは、普通のアイス・ドラゴンよりも一回り大きく、永き時を生きる古竜であり、狂いつつもその能力は並のドラゴンを上回り、三頭をあっという間に仕留めたフレオールが、


「ガアアアッ!」


 絶えず吹き荒れる氷雪に、近づくこともままならない状況であった。


 コールドプラスはライディアン市の外壁の一部を凍らして砕いて侵入し、さらに進む先の建物、目についた人間をことごとく凍結させ、フレオールがその前進を止めるまで、ライディアン市の一部を氷の世界と変えた。


 フレオールの投じた真紅の魔槍を、巨大な氷の塊を生み出して防いだものの、魔法戦士の危険性に狂気に侵された本能で悟ったか、コールドプラスは前進を止めて、全力を以て魔法戦士を仕留めにかかっている。


 氷雪が途切れることなく吹き荒れ、フレオールはコールドプラスの近づくことができない。ヘタに近づこうものなら、身も凍るような寒さに動きが鈍っていき、身にまとう双革甲ごと、その巨大な牙や爪で引き裂かれるだろう。


 遠くから魔槍を投げても、コールドプラスは防いでのけたが、次はそれですむ保証はない。古竜の魔力であれば、フレオールの込めた膨大な魔力ごと、真紅の魔槍を凍結させるのも可能だろう。


 理性を失っているドラゴンにそのような芸当はできないと確信できれば、一気に楽な戦いとなるのだが、確証が得られるまでは、慎重に徹するべきである。


 ワイズ王国を滅ぼした後、幼年の竜騎士見習いらに行った実験でも、やたらと爪や牙を振るう個体もいれば、やたらと能力を用いる個体もおり、狂気に侵された結果はまちまちで、狂って暴れ回る以上の法則性は見られなかった。


 だから、フレオールがコールドプラスがやたらと用いる氷雪の嵐から距離を取りつつ、隙をひたすらとうかがう状態が長く続くと、当然、魔法戦士の側は息が乱れ始めただけではなく、その頭上にシィルエールの駆るスカイブローが旋回するようになった。


 ライディアン市の外に誘導されたのが、ドラゴン族でも防御力や生命力が高いアース・ドラゴンとはいえ、七頭でかかればたった一頭を仕留めるのにそう長い時を必要とするものではない。


 そして、アース・ドラゴンを倒した七竜姫らは、フレオールとコールドプラスの戦いに、横槍を入れる構えを見せた。


 七竜姫らからすれば、フレオールの勝敗や修練など知ったことではない。重要なのは、コールドプラスが市内で暴れている一事である。


「ガアアアッ!」


 スカイブローは咆哮を発し、風の刃をコールドプラスへと放つ。


 風の刃は吹き荒れる氷雪に阻まれ、アイス・ドラゴンの巨体に届かなかったが、シィルエールの目的はコールドプラスの意識を自分たちに向けさせることである。無視されたままでは、外へと引っ張っていくことなどできない。


 スピードはあるが、攻撃力は低いエア・ドラゴンの一撃は、アイス・ドラゴンの古竜であるコールドプラスに何らダメージを与えられるものではないが、注意を引くことはでき、


「槍よ! 刺し砕け!」


 意識と視線が上に向いたコールドプラスの右前足を狙い、フレオールは真紅の魔槍を投じる。


 上を向けば、下はおろそかになる。頭よりも命中率と踏み、投げ放たれた魔槍は見事に狙った部位に突き刺さり、


「ガアアアッ!」


 コールドプラスは吠え、砕け散ろうとした自分の右前足を、強引に凍らせてつなぎ止める。


 同時に、それはフレオールの得物が奪われた意味し、


「槍よ! 来い!」


 持ち主の声に応じようと、真紅の魔槍は氷の中で震えるような動きを見せるのみで、メイン・ウェポンを失った魔法戦士は後退を始める。


 当然、上空からのスカイブローの攻撃など、まるで意に介さなくなり、コールドプラスは猛然と、片足を吹き飛ばしかけてくれた人間に追い始める。

 ドラゴンの巨体と力の前では、人の建物など大した障害物とはならないが、まったく邪魔にならないわけではない。体当たりで建物を壊して突き進まねばならない上、アイス・ドラゴンは機敏に動ける方ではないので、フレオールやイリアッシュのみならず、ベルギアットの足でも逃げることができた。


「……マズイ……」


 上空のシィルエールのみならず、他の七竜姫やドガルダン伯爵も苦い表情となる。


 頭上の一頭を完全に無視し、コールドプラスがひたすら二人と一頭を追い回す、つまりライディアン市の中を駆け回るということは、それだけ被害が大きくのだ。


「姫様、まずはあの疫病神どもを討ちましょう」


 領地の損害にいきり立つドガルダン伯爵の提案は、妥当なものであろう。


 フレオールらの存在が狂ったアイス・ドラゴンを外へと誘き出す邪魔となっているなら、先にフレオールらを殺す。順序としては間違っていないが、ティリエランらは決断をためらった。


 悪夢のような現状と現実を思えば、アーク・ルーンの手先など八つ裂きにしてやりたいが、これまで手を出すと、ことごとく苦い思いさせられてきた経験が、六人の王女を慎重にしている間に、新たなエア・ドラゴンが飛来した。


 そのエア・ドラゴンはライディアン市の上空をしばし飛んでいたが、不意に急降下を始めた先には、イリアッシュがいた。


「ああ、私が殺した人のドラゴンですか」


 自分に向かってくるエア・ドラゴンを見据えながら、イリアッシュはのんびりとつぶやく。


 ライディアン竜騎士学園に残った面々は、フレオールらが空間転移していなくなると、主の仇を討たんとする六頭のドラゴンを解放した。


 討つべき者がいなければ、押し留める必要はないと判断したからだが、それは彼らが隣人たるドラゴンの知性をちゃんと理解していないと思われても仕方のない振る舞いであろう。


 フレオールはライディアン市に赴き、ドラゴンと戦うと述べた。人がそれを戯れ言と聞き流したのに対して、ドラゴンは敵の示した可能性を確かめに動き、六頭のドラゴンは主の仇を討つ機会を得た。


 狂っていようがいまいが、ドラゴンにとって町の損害は足を止める理由にならず、建物を壊しながら急降下したエア・ドラゴンの攻撃を、イリアッシュは大きく後ろに跳んでかわす。


 無論、そのエア・ドラゴンに遅れ、五頭のドラゴンがさらにライディアン市を仇討ちの場せんとする最中、別の方向から一頭のギガント・ドラゴンが飛来する。


 イリアッシュの乗竜、ギガである。


 そのギガが鈍い方向転換で、進路にやや修正を加えたのは、コールドプラスにエア・ドラゴンの見境ない攻撃も加わり、主とそれ以外の人間が、自分以外のドラゴンの空間転移で、少し離れた場所に移動し、態勢を立て直そうとしたからだろう。


 ギガの進む方向、フレオールとイリアッシュと共に、空間転移したベルギアットの出現した地点には、数百人のライディアン市民が避難していた。


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