竜殺し編7-1
「ヅガート将軍がワイズの民に敗れ、死にかけたって話を耳にしたんだが、どういうことだ? できれば、教えてほしい」
吉報その二、と言うべきなのだろうか。
さすがに試験前日となり、放課後のライディアン竜騎士学園の生徒会室には、ティリエランの姿こそないが、七竜姫の六人とフレオール、イリアッシュ、そしてモニカの九人が、最後のテスト勉強に勤しんでいた。
九人の中で、ナターシャはシィルエールほどでないにしろ、元から色白なせいか、血色の良くないその顔は紙のように白く、その隣に座るウィルトニアも珍しく、落ち込んでいるのがハッキリわかるほど表情が暗かった。
先日のフレオールの言が気になり、ナターシャとシィルエールはティリエランに頼み、エア・ドラゴンを駆るロペスの竜騎士に祖国というより、最前線の様子を見て来てもらい、その報告を受けた七竜姫は皆、愕然となった。
フリカの現状に関しては、予想を下回るものだったので、シィルエールはほっと安堵の息をついたが、予想外に悪いタスタルの現状には、ナターシャもウィルトニアも息を飲んだ。
正確には、ワイズ兵とタスタル兵の行状に、と言うべきだろうか。
タスタルの民の一部が野盗化し、タスタルの民を害しているのは、フレオールの予想したとおりであった。が、ワイズ兵とタスタル兵の一部が、タスタルの民を害しているのは、アーク・ルーン軍でさえ予想していなかった事態である。
これまで、七竜連合の戦争がここまで長期化した例はない。敵軍がどんな堅陣を築いても、竜騎士の圧倒的な武力で粉砕でき、短期決戦でカタが着いてきたからだ。
建国以来、初めての長期戦に加え、大敗の連続に、最前線でアーク・ルーン軍と対峙する兵たちがかなり苛立ち始め、日に日にささいなことで味方ともめる兵が増えている。
それでも、フリカ兵は陣中のもめ事ですんでいるが、何度もアーク・ルーン軍と戦い、命からがら逃げ延びる恐怖を経験し、過度のストレスを抱えるワイズ兵とタスタル兵は、すでに平静さを失っており、味方同士のケンカも、武器を使って傷つけ合うほどに、カンタンにエスカレートしてしまう。
さらにマズイのは、そんなワイズ兵やタスタル兵が、ドラゴンのエサを集めるため、村や町を巡って食料を徴発している点だ。
命令よりも多い食料をタスタルの民から取り上げ、酒もあれば取り上げて、過剰な分を自分たちの懐と胃袋におさめるのは当たり前。その際に抵抗する民を袋叩きにしたり、剣で斬りつけるなどして、重傷を負わせるだけではない。取り上げた酒で悪酔いした兵に襲われ、ケガどころか、殺された者もいれば、若い娘を人目のない所に連れ込む兵もいるほどだ。
極めつけは、そうしてやり過ぎたワイズ兵やタスタル兵が、証拠隠滅のために村に火を放つなど、その暴挙は留まるところを知らない。
ともあれ、ロペスの竜騎士がその酷い現地のありさまを調べている内に耳にしたのが、ヅガート将軍がワイズの民に敗れ、危うく死にかけた、という話だった。
ただ、あくまで調査の途中で小耳に挟んだだけのものであり、真偽のほどはたしかではない、言ってしまえば噂話の類だ。
とりあえず、ワイズ兵やタスタル兵の素行は、七竜連合が取り組みべき問題であり、また恥ずべき内容であるため、ロペスの竜騎士はそれを七竜姫と学園長であり、王妹であるターナリィ以外には口外しなかったが、ヅガートの件は顔見知りのロペスの生徒に話し、そこから爆発的に学園中に広がった。
今、学園中にあふれている話題ゆえ、取り立てて聞き耳を立てずとも、聞こえてきた内容は、フレオールからすればにわかに信じられぬものであった。
アーク・ルーン軍の足止めのため、バディン王国の主導の元、ワイズの貴族らを通じて、ワイズの民を煽動して回り、ヅガートら第十一軍団をさんざんに手こずらせたのは去年の話である。
ヅガートらが苦心して、ワイズの民の反抗を鎮圧している間に、代国官として赴任したトイラックの施政と、四個軍団にも及ぶの援軍の到着で、フレオールらがライディアン竜騎士学園に入学する頃には、民による騒乱と反抗はすっかりと治まり、それからのワイズは平穏な日々が続いている。
武器を手にワイズの民が再び決起したなどという話、フレオールは聞いたこともなければ、トイラックの善政で良く治まっている今のワイズで、そのような抵抗運動が起きるとも考え難かった。
無論、普段はロペス王国の領内で学生をしているフレオールなので、シャーウとフリカは挟んだ最前線の様子が逐一、わかるわけではない。
が、去年のワイズの民の騒乱で、ヅガートがそこまで追い詰められたなどという話を聞いたこともなければ、仮にワイズの民が武器を手にした場合、真っ先に狙われるのは、十万のアーク・ルーン兵と共にいないトイラックのはずだ。
もちろん、空間転移できるベルギアットに頼むか、自分で『マジカル・テレポート』して、最も近い友軍の所に行けば、あっさりと判明することだが、フレオールとしては単なる噂話のような話題でそこまでする気になれないし、放課後、生徒会室で七竜姫の誰かに聞けばいいと思っていたので、深刻な様子の王女らにたずねたのだ。
ちなみに、フレオールの予想をはるかに上回るタスタルの現状を学園で知っているのは、七竜姫の面々とターナリィだけである。
あまりにも酷いその内容は、無闇に教官や生徒らに伝えられるものではないし、敵にわざわざ自分たちの恥をさらすこともないから、学園では十人を除いて無邪気に喜んでおり、その十人の内の二人は小首を傾げて七人に疑問をぶつけたのである。
ウワサのとおりにヅガートが死にかけたとしても、死んだわけではない。が、もし、ワイズでヅガートをそこまで追い込む反乱が起きたなら、七竜連合がその反乱を起こした面々と連絡を取り合えば、アーク・ルーン軍を内と外に挟撃も可能となるが、そういった点に思い至らないほど、タスタルの現状が七竜姫の面々の胸中を重く占めていた。
「……詳しいことはこちらも知らない。こっちとしては、オマエにその点を確認したいぐらいだ」
一応は、クラウディアが素っ気ない口調で、答えになっていない答えを口にする。
落ち込んでいるというレベルではすまない七人の王女の姿に、これでフレオールはタスタルの現状でも報告を受けてショックも受けたと察したが、その点よりもヅガートことに思考を優先させた。
「タスタルからの報告の際、そんな話を拾ったってトコか? 前の、我が軍が撤退したって報告と違って、ちゃんと確認が取れたって話じゃないみたいだな。具体性が無さすぎる」
フレオールが心中でそうつぶやき、考えをまとめていく。
ヅガート敗れるの報ほど、七竜連合に喜ばれるものはないだろう。
昨年、ワイズを滅ぼしただけではなく、連合軍も打ち破っているヅガートは、程度の差こそあれ、七竜連合のどの国からも恨まれている。だから、ただ陣地に引っ込んだだけの先日のニュースより、はるかに七竜連合の人間を喜ばれるだろう今回の話題に、何ら具体性が見出だせないのが、フレオールが臭いと感じる最大の理由だ。
「しかし、単なる噂であるにしても、ヅガート将軍が負けたなんて話、いったい、どこから、出てきたんでしょうね」
共に小首を傾げるイリアッシュの指摘したとおり、どんな荒唐無稽な話でも、ウワサの土台となるものがあるはずだ。
火のない所から煙は立たないように、一片の真実も無く、虚言は生まれない。
ヅガートが負けた。そのウワサが立つ理由と原因が、どんなささいなものでも必ず存在するはずなのだ。
「……昨年、ヅガートって人は、ワイズでの反乱を鎮圧に苦労したと聞きますから、それがウワサの原因なのではないんですか?」
落ち込むウィルトニアを気にしつつ、調子を合わせるだけの内容を口にするモニカ。
当たり前だが、タスタルの実態を知らないゆえ、ウィルトニアらと悩みを共有できる立場にないモニカは、父や祖父の命でイヤイヤ、侵略者らの側にいるだけなので、フレオールの悩みに真剣に向き合っているわけではないが、適当で妥当なだけのその発言は、むしろ、かえってそれらしく聞こえた。
「常識的に考えれば、そうした苦戦に尾ひれがついて、負けた、死にかけた、なんて話になったんでしょうね。アーシェ姉様さえ歯が立たなかったあのヅガート将軍に、ただ武器を持っただけの民が勝つどころか、マトモに戦えるとは思えませんし」
去年の今頃には、もうアーク・ルーン軍の侵攻が始まっており、イリアッシュは父親からワイズへと呼び戻されている。イライセンやアーシェアの側で、ヅガートの巧妙な駆け引きと戦いぶりを痛感した彼女からすれば、兵士と違って訓練を受けていない平民らでは勝負にならないというのが、率直な感想だ。
が、フレオールの感想は異なる。
正規軍よりも民衆による反乱の方が、はるかに厄介な場合があるのだ。
単純な戦闘力なら、民より兵の方が上だ。が、単に叩きのめせばいいだけの敵兵と違い、新たな領土の民はただ力でねじ伏せるだけでは、後々の統治に支障が出る。なるべく殺さず、傷つけずに抵抗を諦めさせる、デリケートな戦い方が要求されるのである。
が、ヅガートはその難しい戦いをうまくこなしたからこそ、トイラックによる統治がスムーズにいったとも言える。
兵事においては万事、心を攻めるを上策とする。
抵抗するワイズの民と、ヅガートはマトモに戦うのを避け、巧みに追い込み、脅し、心を折るのに努め、恐怖というムチを叩き込んだからこそ、後でトイラックの善政というアメが活きたのだ。
「まっ、ウワサなんていい加減なものだから、モニカ先輩の言うとおりかも知れんな。オレが聞いた限り、ヅガート将軍はうまく戦いはしたが、苦しい戦い……ああ、なるほど、戦って敗れたじゃなく、敗れて死にかけたか」
頭を悩ましていた疑問が不意に氷解した途端、フレオールは面白げに小さく笑い出す。
「何か、心当たりの戦いがありましたか、フレオール様?」
「ああ、ワイズの民に敗れて、死にかけたって話、たしかに聞いた。何しろ、後少しで、す巻きにされて、川に沈められたそうだったってことだからな」
「それは、ワイズの民がヅガート将軍を襲い、川に落とそうとしたということですか?」
「いや、自業自得だ。賭場で有り金を全て失った上、文無しのまま負け続けた結果、その筋の恐いお兄さんにケジメを取られそうになったって、まあ、笑い話だな」
フレオールはくくっと笑うが、九人の女子は笑顔どころか、あまりのエピソードに顔を強張らしている。
「オレはその当時、ワイズにいなかったが、クロック殿から聞いたというか、グチをこぼされたところによると、ヅガート将軍は黄金でできた将軍の身分証を質屋に叩き売った金で賭場にいき、ひたすら負け続けて、その金を使い尽くしても賭けを続けた結果、負けた分の賭け金を払えず、賭場の人間にボコボコにされ、す巻きにされて川に沈め、ケジメを取られそうになったところに、間一髪でクロック殿が間に合ったそうだ。おそらく、旅人なり、行商人が賭場でそうした話を拾い、タスタルにでも来た時、笑い話として話したのが、噂の出所だろう」
クロックはヅガートの副官で、平民出身の魔術師である。
軍団長の副官となれば、かなりの高級士官となるが、彼の場合、その実態は、非常識な上官に振り回され、その後始末が最も重要な任務となっている。
ヅガートが病的な貴族嫌いなため、去年、共にワイズを攻めた際、フレオールはヅガートよりもクロックと接することの方がはるかに多いだけに、その苦労がどんなものか知っているので、クロックからグチをこぼされても、むしろ、かえって同情してしまうほどだ。
「何で、そんな人が将軍なんですか?」
モニカが素朴な疑問を口にする。
身分証を質屋に売るなど、処刑されても足りない所業であるが、ヅガートの非常識さはそんなもので留まらなかった。
「カンタンな話だ。ヅガート将軍が優れているからに他ならない。それに、こんなものは序の口だぞ。あの人、皇帝陛下との謁見すら、ことごとく仮病を使って避け、酒を飲んでいるんだ。いったい、何度、不敬罪で告発されたことか」
十万の大兵をあずかる将軍が、主君と一面識がない。正に、非常識の極みのような話だが、それが成立してしまうだけの要素、皇帝に実権が無い、実権を有するネドイルがただ才能だけを重んじるというのが、魔法帝国アーク・ルーンの実態だ。
「ヅガート将軍の貴族嫌いはハンパじゃないからな。皇帝だけじゃなく、貴族ってだけで、とにかく毛嫌いする。オレなど近づくだけで露骨にイヤな顔されたもんだが、それはネドイルの大兄や司法大臣閣下、父上なども同様だ。シャムシール侯爵夫人など、特にその反応が強い。例外は、メドリオー将軍とイライセン殿ぐらいだ」
アーク・ルーンの司法大臣やシャムシール侯爵夫人は、人格的に優れている人物だが、性格や性別に関係なく貴族というだけで嫌う。ただ、貴族であっても、イライセンやメドリオーのように、軍事的才能で勝るというより、ケンカしても勝てない相手には、多少の敬意や遠慮を見せる。
ネドイルに従っている理由の半分は、ケンカしても勝てないからだろう。
一方で、ヅガートは平民出身の、トイラック、サム、シュライナー、フィアナートなどとは親しく接する。特に、トイラックは共に酒を飲んだり、飯屋や風俗に誘うほど仲が良い。また、サムがどれだけ酷い略奪をしたと聞いても、ヅガートは態度を変えることはなかった。
確固たる偏見の持ち主であるヅガートは、十万の手勢の内、平民出身者は優遇し、貴族出身者は冷遇する。クロックが副官を務めているのも、平民出身であるという点が大きい。
「しかし、そんな人を、どうやって宮仕えさせているんですか?」
これまた素朴な疑問を口にするモニカ。
「ネドイルの大兄にデカイ借りがあるんからだな。正確には、大兄の差し出した甘いエサにかじりついてしまって、イヤな宮仕えを辞められないというトコか」
そう結論を口にしてから、詳しいところを話していく。
「今は病死したが、十六で王となり、十年ほどで十一の国を討った英雄がいた。その英雄が十万騎を率いて攻めた国に、ヅガート将軍は雇われていたそうだ。何でも、そこの将軍に借りがあるんで、イヤイヤ貴族に雇われていたそうだが、その人は国難に際して、一介の傭兵の意見を取り上げたんで、一千騎で十万騎を撃退できた」
「じゅ、十万騎を一千騎で!」
モニカは驚くが、すでにヅガートがどんな手を使ったか知る他の面々には今更の話なので、七竜姫らは暗い表情のままである。
フレオールは百倍の敵を退けた手法をモニカにも教え、
「が、別の見方をすれば、敵に大きな打撃を与えたわけではないんで、敵は再侵攻の準備をすぐに整えられる。また、奇策が二度も通じる甘い相手ではない。だから、その国は、その当時、近くまで進出していたので、アーク・ルーンに援軍を頼みに来た。で、その使節団に護衛としていたヅガート将軍を見た途端、ネドイルの大兄は十万の援軍を出すことにした」
「……なっ!」
これにはモニカだけではなく、初耳のイリアッシュや七竜姫らも目をむいて驚く。
数千でも、他国に貸す兵として多いというのに、ネドイルの提示したケタ違いのそれは、一同の度肝を抜いたが、まだ驚くには早いというもの。
「しかも、ただ十万の兵を貸すだけではなく、その兵糧や費用はもちろん、戦果に対する恩賞なども全てアーク・ルーンが負担すると、ネドイルの大兄は定めた」
言うまでもなく、援軍にかかる費用は、援軍を受けた国の側が負担すべきものである。ゆえに、ネドイルのそれは、気前がいい以前に非常識ですらある。
「当たり前だが、無条件じゃない。ネドイルの大兄の示した条件はただ一つ。その十万の指揮を一介の傭兵、つまりは当時のヅガート将軍が取り、何人もそれに異議を挟まぬこと。端的に言えば、ゴタゴタ抜かさず、ヅガート将軍の好き勝手にさせろやって話だ」
「フレオール、様、そんのなバカげた話、私をからかっているだけでしょ?」
「っん、別に信じてもらわなくてもいいが、そうバカな話じゃないぞ。寄せ集めの十万が、ヅガート将軍の元、竜騎士をも打ち破るほどの精鋭になったんだ。それだけでも、一個人にタダで十万の兵を貸すだけの価値はあるってもんだ」
逆に言えば、一国の要請に対しては、一兵とて応じる価値はないというのが、ネドイルの判断だ。
「もちろん、ヅガート将軍も甘くない。十万の兵を貸してもらえれば、ネドイルの大兄に巨大な借りができる。だが、それがわかっていても、差し出されたエサが甘美に過ぎた。何しろ、十万の兵を自由に用い、希代の英雄と存分に渡り合えるんだ。大軍を率いて大敵と戦うは、武人の本懐。その誘惑にヅガート将軍は勝てなかった」
そこまでしたからこそ、貴族嫌いのヅガートを配下に加えることができたのだ。
ヅガートはアーシェアどころか、その希代の英雄とも互角に戦うだけの才を示しているからこそ、ネドイルの恐ろしさに、モニカは息を飲み、七竜姫らの表情がますます暗くなる。
ヅガートの才を見抜いたことよりも、その才を得るために、とことんまでやる大宰相の姿勢に。
「権力で揃えられるのは、駒だけだ。人を得たいなら、器量を示すより他ない。人の気骨ってものは、富や権力で得られるほど易くない。ネドイルの大兄はそれを知っているだけの話だ。まあ、その程度のことがわかっていない人間が世に多いのも事実だが」
イヤイヤながらヅガートがネドイルのために働いているのは最大の理由は、貸し借りうんぬんの前に、ネドイル個人の器量に屈服したからだろう。
他の諸将にしても、将軍に取り立ててもらったから、その役割をこなしているのではなく、ネドイルの示した器量に応じているからである。
ヅガートは心服、心からネドイルに忠誠を誓っているのでなはい。大半の大臣や将軍も、それは同様である。が、彼らは例外なく、大宰相の地位や権力ではなく、器量に心を打たれ、ネドイル個人に心が負けを認めたがゆえ、世界征服などというバカげたことに尽力しているのである。
「王だの権力だの、そんな形式に従っているだけのヤツがいかに下らんか、実態のない噂に浮かれ、踊る様を見れば明白だ。が、それ以上に下らんのは、そんな駒にかしずかれ、満足している連中だな。人を得るということがわかっていないのだから、人を得ることができない、だけじゃない。器量のない者が采配を振るえば、そのツケはどこかで自分に返ってくる。まっ、嘆かわしいことに、その程度のこともわかっていない人間が世に多いのも事実だな」
予言。
別段、フレオールはそのようなつもりで、暗然となっている七竜姫らの気持ちをさらに暗く重くする言葉を吐いたのではない。
当人としては、単に当たり前のことを口にしただけだ。
が、当たり前のことを知らなかった者たちは、数日後、そんな当たり前の結果に、暗い気持ちをさらに光明から遠ざかる方へと引っ張られることとなった。




