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プロローグ5

ここからネドイルが出てきます。

相当、酷い人物です。

この作品の諸悪の根源です。

 均整の取れた立派な長身、神経質そうながら整った顔立ち。濃い赤色のやや長めの手入れの行き届いた髪と、やはりちゃんと手入れされた口と顎の髭。


 理知的な瞳からは鋭く威圧的な眼光を放つせいか、充分に筋肉はありつつ、決して広くない肩幅、厚くない胸板ながら、年季の入った官服を着たその身は、独特の重厚さをまとっていた。


 四十代半ば近く、若々しさを失った分、経験による深みが、そして沈着さも、武人として鍛えた容姿に加わった姿は、絵画のモデルとしては最上の素材であろう。


『支配者』という絵画のモデルとして。


 それほどに、その男の外見には弱さという部位が見当たらず、他者に屈する膝を持ち合わせていない、そんな強烈な印象があり、そのあながち間違っていない第一印象を、見た目以上に非凡な内なるもので築いた男、否、大傑物だった。


 大宰相ネドイル。


 魔法帝国アーク・ルーンの真の支配者であり、形式的にはアーク・ルーン帝国の皇帝に頭を下げるが、その皇帝の頭を自らの都合で三度に渡って替えてきた、真に誰にも頭を下げなくても良い人生と権力を手中にしている。


 それほどにネドイルの手にする権力は強大だが、しかしまだ絶頂ではない。世界の四割以上を支配するアーク・ルーン帝国の国土はますます広がり、その実質的な支配者の権力はさらに巨大なものとなっている。夢物語ではなく、世界征服や世界統一を成し、権力者として世界の頂きに立つ日が訪れるだろう。


 無論、自然にもたされるものではないそれを、当人が今の権力を足場に更なる高みを目指しているからであるのは言うまでもない。


 古来より、強大な権勢を得た者はいくらでもいる。彼らの中にはひたすら高みを目指したが、その頂きに至った者は未だいない。その途上で命数を使い果たした者も多いが、うかつにも、自らの足場の材料が生者と死者でできているのを忘れ、ただ上しか見ていなかった結果、屍のフリをした敗者に、忠実なフリをした家臣に、足元をすくわれて転落死した傑物も少なくないのだ。


 七竜連合を始め、これから踏み台されようとしている者は、踏み台にしようとする者が足を踏み外すことを願っているだろうが、その夜、自らの執務室に直属の密偵らを呼びつけたネドイルの案件は、自分の足元に関係するものであった。


 窓際に立つアーク・ルーンの真の支配者の足元で、恐縮して平伏するのは皆、ネドイルの命令でこれまでいくつもの国を、破壊工作や情報操作、内部かく乱で破滅に導いてきた腕利きばかりではあるが、


「我が弟、ヴァンフォールの件、うまくいっていないようだな」


 いつもどおりに前置きなく要点のみを語る冷たく響くその声は、常と違って苛立つものが目立ち、密偵らは頭をますます下げてさらに恐縮する。


「まだ二十歳にも関わらず、ヴァンフォールを財務大臣に取り立てたのはオレだ。だから、その才は良く知っており、今回の命令が難しいのもわかっている。が、承知しているからこそ、キサマらに諸将や大臣らが協力するよう密かに計った。それだけではなく、オレの名を自由に使っていいと、アーク・ルーンの総力を用いてもいいともした。まさか、キサマたちはこれがいかに重要な案件か、わかっていないのではないだろうな?」


 不機嫌さが混ざっているせいか、冷たく鋭い声は普段より重く響き、密偵らをますます平伏させた。


「オレはキサマらの工作をのため、ヴァンフォールに対して裏から手を回したのは、二度であったか、三度であったか。が、それを気にするには及ばん。工作が成功し、弟の心を変えられるなら、十度でも二十度でも手を尽くそう。キサマらが手練手管をわきまえているのは知っている。ゆえに遠慮は、弟にもオレにも無用だ。成功のためなら、オレを顎で使ってかまわん。とにかく、成功させることにのみ、専心せよ」


 信じ難いほどの便宜を示されたが、それに対して誰も軽々しい発言や安請け合いはせず、密偵らはただ平伏したままであった。


 任務の困難さのため、苦渋に満ちる顔を隠すかのように。


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