日常
ヒロキが家にきて少し経った。
かなり、後悔している。
あの時は家出して飯も食わず、傷はあるわでかなり衰弱状態でまさに死に際だったのだろう。
そんな彼が元気になっても俺はおとなしいものだと考えていたのが甘かった。
「ただいま…」
「アカラギ!!」
ドアを開けるとヒロキが目の前にとびこんできた。
俺はそのまま体重に負けてヒロキと共に倒れる。
「ってぇ…お前…犬じゃねぇんだから…」
「アカラギ!!おかえり!!」
「ああ、うん…ただいま。」
顔を押し付けてくる。
なんだか照れくさい。
こいつは本当に前世が犬なのではないだろうか。
「どけ、邪魔だ。」
「あのね、アカラギ。」
「何だよ…」
はやく制服を脱ぎたい、ジャージに着替えたい。
「今日ね、アカラギがいなくて寂しかったんだ、僕。」
…寂しい?
「それだけかよ。」
「でも、寂しかったぶんアカラギと会えた時の嬉しさが大きいの、おかえり。」
口だけは達者らしい。
少し痛いと感じるくらいに抱きつかれたあと離れてくれた。
「ほら。」
俺は買ってきたからあげクンを差し出す。
「からあげクン!!!ヤッター!!!!」
「あ、全部食うなよ!?俺も食うんだからな!!」
たしかにめんどくさいけど、退屈はしない。
「アカラギ!!おはよう!!」
ズンッと音がして俺の腹が潰される感覚に襲われた。
「げほっ…げほっ!!ごほっ!!まっ…がはっ!!!」
目を開けてヒロキが乗っかっていることに気づいた。
「お前…もうちょっとましな起こし方しろよ…」
こんなの毎日やられたら間違いなくいつか誤って死ぬ。
「それに今日は午後からいくんだよ、まだ六時じゃねぇか」
「じゃあその分アカラギといれるんだね!」
「…」
とりあえず、眠たい。
「寝る。」
「えぇ〜寝ちゃうの?」
「寝るよ、俺はまだ眠たいんだ!」
ヒロキが上に乗っかってることなど気にせずまた布団にもぐる。
「じゃあ僕も寝る!」
「そう…」
寝れ、寝るんだ。
そうだそしたら落ち着く。
しかし俺の予想とはまったく逆にヒロキは動いた。
「ひっ!」
腹がひんやりとした何かに掴まれくすぐったいかとおもうとヒロキが腹に手を回し俺の隣に寝てきていた。
「ヒロキ…寝るなら自分の部屋で寝ろよ…」
「アカラギと寝る…」
何故こいつは一瞬で寝れるんだ。
「アカラギ、お腹だして寝たら風邪引くからね。」
「…わかってるよ。」
高校に入って誰かと寝る日が来るなんて思いもしてなかった。
暖かいし髪がこちょばしい。
寝るなら女とが良かったな…
「アカラギ、今日は学校行かないの?」
「ああ、行かない、無い。」
目に見えてわかるほど嬉しそうな顔をした。
「うっ…」
何処かに連れて行ってやる気は起きないが、何かしてやらなきゃいけないような気がしてしょうがない。
「へへ、アカラギと一日いれるんだ。」
隣というか、膝の上に座ってくる。
…可愛い。
これが大きくなったら座ってくることもなくなるのか。
「アカラギあったかい!」
「そうですか。」
もうそろそろ、何故孤児院にいたのかそうゆう話を聞きたいと思っている。
…触れてはいけないものだろうか。
「ヒロキはなんで孤児院にいたんだ?」
「え?」
散々笑顔になっていた顔が止まる。
「言いたくないなら言わなくていいんだ。」
「…コインロッカーに捨てられたよ。」
コインロッカー…
「そのあと孤児院に拾われて、そのまま今の今まで暴力を受けながら生活してたんだ。」
「孤児院に入っても思いやりとか、温もりなんてまったく感じなかった。」
声が震えている。
もう話させない方がいいかもしれない。
「ありがとう、話してくれて。」
頭を撫でる。
嬉しそうに微笑んだ。
「家族ってこんなに優しいんだね。」
「…家族じゃねぇよ。」
そう、家族じゃない。
今俺はれっきとした誘拐犯なんだ。
ただ孤児院側が警察に行くと自分が捕まるハメになるし子供が引き取られたから良いやとなってるだけで。
「僕にとっては家族なんだよ、血が繋がってなくても。」
「家族、ね…」
今は適当にそう考えてしまっていいのかもしれない。
そっとヒロキに寄っかかると何も抵抗をしてこなかった。
静かに聞こえてくるヒロキの心臓の音が、俺の心を落ち着かせた。