〜第7夜 悪夢〜
「・・・・。」
リデルは言葉を失った。
―やはり尋常ではなかった・・・―
そんなことを思っていた。
―私は本気なんです。―
シルフィンの目がそう訴えているように見えた。
「理由は何なの?」
リデルは出来る限り落ち着いた声で聞いた。
その声とは逆に背中には冷や汗が流れていた。
「夫に暴力をふるわれていますの。」
それは見れば一目瞭然だった。痣だけではなく、服もところどころ破れている。
「酒癖が悪くて・・・それ以前に私の事が気に食わないらしくて・・・。」
「別れれば良いのでは・・・?」
リデルの問いに、シルフィンはため息をついた。
「それが出来れば苦労はしませんわ。」
そう言ってシルフィンは、また深いため息をついた。
「私と夫の結婚は家が決めた事でして・・・もし、別れでもしたら、私は家を追い出され、行く所が無くなってしまいますわ・・・。」
シルフィンはリデルを見つめた。哀しみを湛える・・・そんな目だった。
「貴女の夫殺しを手伝うことは・・・出来ません。」
リデルは軽く目を閉じて言った。彼女の目を見ることが出来なかったのだ。
「ただ・・・貴女の夫の余命を占う事ならできます。・・・それだけでもよろしいでしょうか?」
シルフィンは頷いた。
リデルは早速、占いを始めた。
方法はタロットカード。手順に従いカードを並べていく。カードを3枚並べ、左から順にめくる。最後の1枚をめくり終えた時、リデルは目を見開き、悲鳴に近い声をあげた。
「いや・・・うそ・・・こんなはず・・・」
出たカードは‘運命の輪’の逆位置、‘恋人’の逆位置、‘死神’の正位置。
「それで夫の余命は・・・?」
死神のカードを見ながらシルフィンが尋ねた。
「そう長くはないでしょう・・・彼は運命により、貴女が手を出さずとも・・・」
「わかりましたわ。どうもありがとう。」
シルフィンは笑顔で扉を開けて出ていった。笑い声を上げながら・・・。その姿はまるで悪魔のようであった。
リデルはその姿を見送りながら、
―私の余命も短いのでないか・・・―
そんなことを考えていた。
その事を占う勇気は、今のリデルには無かった。
この出来事から2週間後、原因不明の伝染病が流行し、それによりシルフィンの夫は命を落とすこととなる。




