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〜第4夜 人柱〜

‘雨乞いの儀’を行ってから一週間が経った。

が、一向に雨は降らず、それといった気配もなかった。その間も、村人達の疲労や哀しみといった負の感情は日に日に増し、ピークに達していた。

その感情は巫女である歌夜に向けられた。歌夜は応じる。


「もし、後一週間程、雨が降らぬ場合は、別のかたちで儀を行いましょう。」


村人達の心には、既に一週間も待てる余裕は無くなっていた。


 ある日、村人達は歌夜に内緒で密かに集まり、今後のことを話し合った。

食料の事、年貢の事、土地の事、そして雨乞いの儀について・・・。


「どうして巫女様が儀式を行ってくださっても雨が降らないのだろうか?」


「あれから、ますます日差しが強くなっているように見えますがな・・・。」


「まさか、龍神様は巫女様を望んでおいでなのでは・・・」


「き・・・きっとそうじゃ!龍神様は巫女様を差し出すように言っておられるのじゃ!!」


村人達は何かに突き動かされるよう、巫女を龍神に差し出すことを決めた。

‘差し出す’という事は、つまり‘生け贄’にするという事だ。

そして次の日、村人達の仲の代表何人かが、歌夜に事情説明と説得をしに行った。たとえ説得に応じなくても、村人達は歌夜を殺め、生け贄にしようと決めていた。






「私に・・・贄となれ、ということですね・・・?」


「はっ・・・はい。そ・・・率直に申し上げますと・・・」


歌夜には分かっていた。

説得に来た村人の懐に短刀が仕込んであり、自分はどっちみち死ななければならないということが・・・。


―ならば・・・―


歌夜は目を閉じ深呼吸をすると立ち上がった。

そして村人達に背を向け祭壇に向かって歩き出した。


「巫女様・・・?」


祭壇に置いてある鏡の後ろから桐の細長い箱を取り出す。箱には何重にも朱い糸が巻いてあった。

その糸を、村人達が見守る中、無言で解いてゆく。

糸が解き終わり、歌夜は箱の蓋を開けた。

中に入っていたのは、立派な装飾を施した短刀だった。

鞘には、菊、彼岸花といった模様がはいっていた。


「これは巫女が自害する時のみに使う短刀です。」


歌夜は背を向けたまま村人に語りかけた。


「はっ・・・はぁ〜・・・それで返事の方は・・・」


村人の額には冷や汗が流れていた。


「承りました。」


歌夜は俯いたまま答えた。

この瞬間、歌夜が生け贄となることが決まった。否、最初から決まっていたのだが・・・。


「日は・・・?」


歌夜は顔をあげ落ち着いた声で問うた。


「今夜・・・、龍神の滝で。」


村人はそれだけ告げて帰っていった。


「これも皆のため・・・」


歌夜は自分の心の中で思っていた事を声に出して言った。

しかし、心の奥底で、もう一つ別の感情が自分を突き動かしているのを歌夜は感じていた。

 そして今、歌夜は龍神の滝にいる。歌夜の最期の舞台・・・。

村人が見守る中、歌夜は短刀を鞘から抜き、自分の喉に突きつけた。


―あぁ、私は・・・―


短刀を思いきり自分の喉に突き刺す。生温かい血が自分の手を伝い、赤い花となり地面にさく。遠ざかる意識の中、歌夜は思った。


―私は・・・死を・・・望んでいたんだ・・・―


こうして巫女としての歌夜は死んだ。

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